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VOL.11 陶の器とキッチン 陶芸作家  鈴木絵里加さん

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ABOUT

土から生み出す器やアクセサリーを制作している陶芸作家の鈴木絵里加さん。独自の釉薬で表現した色合いや質感の作品は、レストランのシェフのファンも多く、使い手の想像をかきたてる魅力に溢れています。家族や友人とのコミュニケーションに欠かせない器、料理、キッチンについてお話をうかがいました。

器、料理、キッチンは家族や友人とつながるコミュニケーションツール

「主人との日々の夕食、両親や親戚、友人たちを招いて食卓を囲む時間を大切にしています。制作中は一人でアトリエにこもることが多いので、おしゃべりを楽しみながら食事をすることが貴重なリフレッシュの時間になっています」

いろいろな街でいろいろな人のライフスタイルと出会う、サーモス日和。最近気になることのひとつは、いろいろな人たちのライフスタイルと食のかかわりだ。「食べること」とみんなは、どう向き合っているのだろう。

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大学で専攻していた建築の世界から一転。ある作家との衝撃の出合いから陶芸の道へ

「SŌK」(ソーク)というブランド名のもと、陶の器や装身具を作る鈴木絵里加さん。「曇りの日に似合う」をコンセプトに、独自の釉薬で表現した微妙な色合いや質感を持つ彼女の作品は、世田谷の静かな住宅街にあるマンションの自宅兼アトリエから生まれる。
「このマンションに引っ越してきたのは1年半ほど前になります。ここに越してくる前は、同じ世田谷区内に、自宅と工房を兼ねた展示室(店舗)を構えていました。けれどそこが手狭になり、新しい拠点を探していたんです。そんなときに見つけたのが、今住んでいるマンションです。現在は、この自宅の一角をアトリエにしています」
鈴木さんが見つけたのは築40年以上のマンション。リビングの大きな窓の外には庭もある、1階の部屋だ。そこをリノベーションして住みはじめた。もともと、美術系の大学で建築を専攻していた鈴木さんは、「いつか自分の家をデザインしたい」という思いを持っていた。その夢は、このマンションに引っ越すことでかなうことになる。リノベーションは、大学時代の友人に設計を依頼し、鈴木さんとご主人のデザインを反映させた。解体や壁塗りなどは、自分たちで作業もした。壁塗りが完了したのは、以前住んでいた家の引き渡し前日だったという。
「家の中心にあるキッチンは、まず冷蔵庫の位置を決めて、それから他のものの配置を決めました。キッチンカウンターの高さは、私の身長に合わせて一般のものよりも少し高めにしています。宮大工の経験を持つ職人さんが、見た目も美しく使いやすいキッチンを作ってくれました」
キッチンの中心にある棚は、以前住んでいた家から持ってきた。大工の知人が作ってくれたというこの棚は、もともと玄関の収納として使っていたのだとか。それを現在は、収納棚と作業台として活用。ホームパーティのときには、家族や友人がこの作業台を囲んで賑やかにおしゃべりしながら料理の準備をしているそうだ。

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大学を卒業後、建築系の設計事務所でアルバイトをしていた鈴木さんが陶芸の道を志すようになったのは、駅で目に留まった展覧会のポスターがきっかけだという。
「高校では、美術系のコースを選び、グラフィックデザイナーを目指していました。でも、建築系の課題がでたことがきっかけで建築に興味を持つようになって。それで、大学では建築デザインを学びました。卒業後、設計事務所でアルバイトをしながら今後の進路を考えていたときに、駅で偶然目に留まったのがハンス・コパーの展覧会のポスターだったんです。ポスターがかっこよくて、その足で展覧会に行きました。そして作品を観たあとには、陶芸を学びたいと思っていました」
ハンス・コパーは、ドイツからイギリスへ亡命した陶芸家。オーストリア出身の陶芸家であるルーシー・リーの工房で才能を見出され、彼女とともに、それまでの陶芸のイメージを変えるような革新的な作品を次々と発表した。

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「とにかく衝撃でした。ハンス・コパーの作品は、実用的な道具を超えた、アートとも呼べるようなもの。そして彼は、器だけではなく、外壁タイルのデザインなども手がける多才な人物でした。設計事務所では多くの経験をさせてもらったのですが、建築の仕事は図面や模型を作ったあとは大工さんに作業を引き継いでもらうことになります。でも私は、自分で手を動かして作ることが好きなんです。だから、彼の作品を観て陶芸の可能性をとても感じました。直感的に、陶芸をやろう! と思ったんです」
ハンス・コパーに出会ったことで、陶芸の表現としての魅力に目覚めた鈴木さんは、陶芸を学ぶため、岐阜の「多治見市陶磁器意匠研究所」へ年齢制限ぎりぎりの26歳で入学した。

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「陶芸の職業訓練校の多くは、卒業後に地元に残って作陶をするという制約があったりするのですが、『多治見市陶磁器意匠研究所』はその制約がなく、作りたいものを作れるカリキュラムだったことが私に合っていました。一緒に学んだ仲間は、高校を卒業したばかりの人から社会人まで幅広い世代の人たちがいて、今でも交流があります。卒業制作展のポスター用に絵を描いたことがあるのですが、陶芸作家になってからそのときの絵がきっかけで仕事につながったりもして。人との出会いはどんなことがきっかけになるかわかりませんね」

陶芸は不確定要素が多いので、飽きっぽい私にはおもしろくもあり難しい作業でもある

「私は、学校で陶芸の基礎は学びましたが、焼き物の歴史などに詳しいわけではないんです。土のブレンドや、釉薬の調合も基本の組み合わせは学校で学べても、作業をする場所の環境や窯との相性ですべてを思い通りにすることはできません。釉薬の調合は、さまざまな組み合わせを試すのですが、配合をどんなに厳密に計っても、窯に入れるときの位置によっても焼き上がりは違ってきます。そのときどきの偶然によって姿が変わる。それが、陶芸のおもしろさなんです。だから、日々いろいろと試しながら楽しむようにしています」
偶然性を楽しむ。だから、作品を作る時も、ほとんどは手を動かしながら感覚で作り上げることが多いという。ときには、土を練る前にスケッチを描くこともあるが、感覚を大事にするという作り方は、器もアクセサリーも同じだ、
「装身具は、器以外のものも作ってみたいと思ってはじめました。イヤリングは、自分が身につけて楽しくなるものをイメージしながら小さなパーツを作り、形状の違うパーツを組み合わせて仕上げています」
土をこね、手を動かしながら、自分の中にあるイメージを形にしていく。そのやり方が自分には合っていると鈴木さんはいう。

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「千葉の港町の生まれで、祖父は魚をさばく仕事、祖母は仕出し屋をしていて、学校から帰ってくると祖母の仕事場で遊んでいました。仕出しに使う容器や、折り紙などを使って遊び道具を作るのが好きでしたね。お祭りの屋台のようにたらいにスーパーボールを浮かべて、手作りのポイ(すくい網)ですくう遊びを友人としていました」
祖父母と過ごした子ども時代に、鈴木さんのものづくりの原点があった。今は、作陶をするのは、朝ご主人が家を出てから夜帰ってくるまでの時間。制作中は集中力を切らしたくないと、コーヒーやおやつで一息つく以外はアトリエにこもっているという。
「一度作業をはじめると没頭してしまうので、制作中に昼食を食べることはほとんどありません。途中で、甘いものを少しつまむくらいです。でも、夕食だけは、どんなに忙しくても主人が帰宅する時間に合わせて調理をして、一緒に食べるようにしています。主人はお酒が好きなので、おつまみを作って晩酌をすることもあります」

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ものづくりの原点は子どものころの遊びから。家族や友人と食卓を囲む時間が日々の楽しみに

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週末には、家族や友人などを招いて食卓を囲むことも多いという。そんな時間は、貴重なリフレッシュのひと時になっているそうだ。
「コーヒーで一息つくときには、庭にやってくる小鳥の様子を見ながら休んでいます。家族や友人とは、外のお店で会うよりも時間を気にせずに過ごせる家に来てもらうことが多いですね。主人の会社の人との飲み会を自宅で開くこともあります。気軽な集まりなので、キッチンでおしゃべりをしながら一緒に料理や準備をするのも楽しい時間です。個展が終わったあとはしばらく何もできない状態になってしまうのですが、家中を一気に掃除してリセットするのもストレス解消になっています。身体もカチカチになっているので、友人と車で行ける距離の温泉に出かけることもあります。ゆっくりと温泉につかって、おいしいものを食べる時間は、次の仕事をはじめるまでの気分転換になっています」
作品作りに集中したあとは、おいしいものを家族や友人と食べてパワーチャージ。暖かい季節になると、近くの公園にワインとチーズなどのおつまみを持ってピクニックに出かけることもあるのだという。

作品の制作中は、昼食を食べることがあまりないという鈴木さん。けれど、時間にゆとりのあるときにはお気に入りのパスタを作ることも。普段よく作る料理は、壁に掛けたメモ用紙の束にレシピを書きためているという。
「大学時代は実家暮らし。多治見の学校に通っていたときも、まかないつきでした。だから、東京で主人と暮らすようになるまでは料理がまったくできなかったんです。主人も料理をしない人だったので、必要に迫られて作るようになりました。東京に戻ってきて、陶芸よりも料理のほうが上達したかも(笑)。キッチンの壁に掛けてあるメモの束には、自分が作りやすいようアレンジしたレシピを書き入れています。主人は苦手な食材が多いので、組み合わせを調整しながらバランスをとるようにしています」

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菜の花とプチトマト、ベーコンのパスタ

にんにくの風味を移したオリーブオイルでさっとゆでた菜の花、プチトマト、ベーコンを香りよく炒めて、ゆでたパスタとからめて仕上げている。取っ手の取れるフライパンと鍋は、収納しやすく、パスタ作りにも重宝しているそう。

人生の最終目標は“いい感じ”のおばあちゃんになること。陶芸作家としての活動もさらに完成度を上げていきたい

「今までは、自分の作品を作って、人に手にとってもらうための基盤をつくってきた期間。これからはもう一歩進んで、自分が作りたいと思うものについてじっくりと考える時間をとって、新たな作品を制作していきたい。作品の完成度も、もっともっと上げていきたいと思っています」
今取り掛かっている新作は、植木鉢。鈴木さんの自宅のリビングには、たくさんの多肉植物が置かれているが、その植木鉢も自作のものだそう。
「草間彌生さんの作品のような、緻密な作業が集積されたものが好きで、家に置いてある植物もそういった雰囲気が感じられるものを無意識に選んでいるようです。今はお皿以外のものを作りたいという欲求が湧いていて、自分の中にある植木鉢のイメージをいろいろと形にしているところです」
そんな鈴木さんにとっての人生の最終目標は「いい感じのおばあちゃんになること」。長い目で自分の人生を見つめ、陶芸作家としての活動も、決して焦らず、少しずつ歩みを進めていきたいという。
「すぐにリアクションが返ってくるような料理と違って、陶芸は作品が完成するまでの時間が長い。自分の理想に向かって一人で試行錯誤することになるので、くじけないようにそのプロセスも楽しむようにしています」

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陶芸作家 鈴木絵里加(すずき・えりか)さん

VOL.11 陶の器とキッチン 陶芸作家 鈴木絵里加(すずき・えりか)さん

1985年千葉県生まれ。日本大学芸術学部デザイン学科建築デザインコースを卒業後、設計事務所でアルバイトとして働く。ハンス・コパーの展覧会で出合った作品に衝撃を受けて陶芸に興味を持ち、多治見市陶磁器意匠研究所で陶芸を学ぶ。2014年多治見市陶磁器意匠研究所を修了し、東京で陶芸作家として活動する。同年、陶芸工房&展示室「SŌK」(ソーク)を設立。現在は、アトリエを自宅に移し(陶芸工房&展示室は閉店)、個展や、レストランなどからの注文を受けて「SŌK」ブランドの創作活動を行っている。
www.soak-tokyo.com

LOCATION 東京都世田谷区

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PHOTOS:SHIN-ICHI YOKOYAMA

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