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VOL.10 下町とおはぎ 「森のおはぎ」店主 森百合子さん

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おはぎ専門店「森のおはぎ」を切り盛りし、テレビや書籍でおはぎのレシピを発表している森百合子さん。日本各地や台湾などで開かれているワークショップやイベントも好評で、独創的なアイデアから生まれる「今までにない」おはぎは、多くの人を笑顔にしています。

目指すのは「毎日食べたくなるしみじみおいしい」今までにないおはぎ

「今までにない素材使いだけれど、ちゃんとおいしくて、見た目もワクワクする。幸せな気持ちになる、おはぎを提案したいです」

いろいろな街でいろいろな人のライフスタイルと出会う、サーモス日和。最近気になることのひとつは、いろいろな人たちのライフスタイルと食のかかわりだ。「食べること」とみんなは、どう向き合っているのだろう。

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出会いに恵まれて、トントン拍子でおはぎ屋さんの店主に。大阪の下町に根ざした懐かしくて、新しい店づくり

昔懐かしい水屋箪笥の上にちょこんと並ぶ色とりどりのおはぎ。大阪・豊中市の岡町商店街を抜けた場所にあるおはぎ専門店「森のおはぎ」には、地元の親子から、遠方からわざわざ訪れるファンまで次から次へとお客さんが来て、いつの間にか行列ができている。この店は、森百合子さんが2010年にオープンした。
「お店のオープン当時は、私の作るおはぎがちょっと変わり種のような感じだったので、お店の雰囲気はあまり作り込まず、懐かしさを感じてもらえるようにしました」
水屋箪笥や古い建具、「ゆらゆらガラス」と呼んでいる表面がゆらいで見える昔の手作りのガラスなどがあることで、その懐かしさに惹かれて年配の人もお店をのぞいてくれるようになり、会話も広がっているそうだ。
「お店をはじめようと物件を探していたときに、よく通っていた居酒屋さんがこの場所を教えてくれたんです。町や住んでいる人たちの雰囲気が気に入って、ここにお店を構えることを決めました。店舗にしている建物の形は三角形。なので奥側が狭いのですが、オープン当時はこの狭いスペースだけで雑穀や小豆を蒸してたんですよ」
一人ではじめたおはぎ屋さんは、今では十数人のスタッフを抱え、森さんはスタッフをまとめるおかみさんとしての顔も持つ。
「ここまでこられたのは、さまざまな人との出会いのおかげです。おはぎ作りをしたいと思って友人などに話をしていたのが、イベントの出店につながり、あれよあれよと店舗の営業許可もとれて。おはぎがどんどん道を切り開いてくれて、その後を私が一生懸命追いかけていた感じです」

森さんは、大阪芸術大学を卒業後、寝具メーカーでテキスタイルデザイナーとして活躍していた。デザイナー時代は、布団の柄やベビー布団の絵柄などをデザインしていたそうだが、ひょんなことからおはぎ職人の道へ進むことになる。
「デザイナーだったときに、わりと時間に余裕のある時期があったんです。それで、あいた時間に何かはじめたいと思うようになりました。そのときに、大学生時代に喫茶店の厨房でお菓子を作るアルバイトをしていて、おいしいもんを食べて幸せな気持ちになっていたことを思い出したんです。デザイナーからなぜおはぎ職人に? とよく聞かれますが、学生時代の友人に言わせると、当時から『いいカスタードが炊けた!』と食へのこだわりを語っていたらしく、意外ではなかったようです」

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かくして、森さんの「幸せになるおいしいもん」探しがはじまる。
「いろんなお菓子を食べ比べては、このお菓子だと見た目もかわいいし、よいんじゃないかと考えていたのですが、見た目だけではブームになっても廃れるのが早いじゃないですか。流行り廃りのない、普段から自分が好きで食べ続けているものを作りたいと思いました」
そこで注目したのが和菓子。もともと、さまざまなお店のわらび餅をよく食べていたことも和菓子に目を向けるきっかけになったという。ただ、わらび餅は季節ものなので専門店は難しいと感じ、次によく食べていた和菓子のおはぎを思いついたのだそうだ。
「おはぎを雑穀で作ったらおもしろいんじゃないかと思い、私が食べたい理想のおはぎを模索していきました」

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森さんのおはぎ作りは、本などで勉強をした独学。理想の味や見た目に近づくため、来る日も来る日も自宅であんを炊き、雑穀の餅を作る試行錯誤の日々が続いた。
「自分が理想とするおはぎをいろんな人に食べてもらうには、おはぎ作りをしていることを口に出したほうが叶うと思い、友人によく話していたんです。友人と一緒に出かけたイベントでも話をしていて、そこで出会った人にカフェでのイベントを紹介してもらう機会に恵まれました。それまでは、おはぎのお店を持つことしか考えていなかったのですが、おはぎでイベントができるんだと、新たな道が開けた感じですね。それからは、イベントに来てもらうには、今までにないおはぎを作らなければと感じて、今のお店に並んでいる定番のオールスターがこのときに誕生することになります」
森さんがおはぎ作りで大切にしているのは、食べたときのバランス。斬新な素材の組み合わせが注目されているが、ちゃんとしたおいしさがあっての見た目のよさ、そして食べやすさにこだわっている。

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おはぎ作りのこだわりは食べたときのバランス。おいしくて、見た目がかわいく、そして食べやすいことが大事

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「新しいおはぎを作るときには『これはおいしくなる組み合わせ』というあたりをつけた後に、実際に作りながら食感や食べやすさの調整をしています。同じ小豆のあんこでも、組み合わせる雑穀や黒米に合わせて炊き分けます」
おはぎ全体の甘み、塩気もこだわりの一つで、いろんな種類を食べてもらえるように絶妙なサイズに仕上げているのも人気の秘密だ。
「雑穀を使ったおはぎは当時ほかにはなかったので、早くお店を持ったほうがいいとアドバイスをしてくださる方もいて。またそのころ、堺市の大きなイベントに参加をしたいと思っていて、その厳しい審査に通るためにお店を構えることを真剣に考えるようになりました。おはぎ作りの材料も市場に買いに行けばいいと思っていたのですが、お店となるとそうはいかず、箕面にある和菓子店『かむろ』の店主には食材屋さんを紹介してもらうなどとてもお世話になりました」

ものづくりの好きな家族との交流や、子どもとの時間が新たなおはぎを生み出す活力に

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人との出会いによって実現した、おはぎのイベントや、おはぎ専門店のオープン。森さんのご両親や二人の弟さん、そしてご主人を巻き込んで家族総出で手伝ってもらい「ヘロヘロで作り上げた」イベントもあったそうで、家族のサポートは何よりも心強いという。
「私は、30歳で『森のおはぎ』をオープンしました。オープン当初は一人でゆっくりとはじめようと思っていたのですが、テレビでお店が紹介されると商品が売り切れて一人では追いつかなくなってしまい、両親や弟たち、『かむろ』の店主にはだいぶ手伝ってもらいましたね」
森さんのご両親は建築業を営んでいて、二人の弟さんは和ろうそく作家と、金属工芸作家という「ものづくり」一家。「森のおはぎ」の看板も、金属工芸作家の弟さんが手がけているそうだ。

「今は、お彼岸になるとおはぎを1000個近く作るようになったのでスタッフが増えましたが、何かとサポートをしてくれる実家の家族と主人はありがたい存在です」
そして、3歳の息子さんと過ごす時間も大切にしているそうだ。
「息子との食事の時間は保育園の話をしたり、息子の好きな食べ物がわかったりするので楽しい時間ですね。仕事をしているのでおかず一皿やお味噌汁で栄養バランスがとれる簡単な料理になってしまいますが、子どもなのにイカ、昆布が好きだったり、とうもろこしの皮が苦手だったり、成長することで変化していく食の好みがおもしろいです」

そんな心強いサポートを活力に、そしてスタッフたちにも支えられながら、森さんは日々、新たなる味を目指しておはぎ作りに取り組んでいる。
「おはぎの味のベースは、『かむろ』の店主に紹介してもらった食材(雑穀、黒米、小豆、大納言、手亡豆、なると金時、くるみ)で作られています。雑穀は7〜8種類のブレンドの中から絞り込んで、はだか麦、もち麦、もち玄米のブレンドを今使っています。新しい味の組み合わせができるまでは、構想2〜3年というものもあります。夏に登場する焼きとうもろこしのおはぎは、とうもろこしのあんがなかなか上手くゆかず、しばらくアイデアを寝かせたことでよりおいしい組み合わせが見つかり、人気商品になりました」
おはぎに加えて、ぷるんぷるんのわらび餅や最中といった和菓子も人気を呼んでいる。また、おはぎのあん作りには、「シャトルシェフ」も活躍しているそうだ。
「小豆や大納言、大豆の豆を炊くときに活躍しています。豆に火を通すときに、豆が動いてしまうと皮が破けてしまうのですが、『シャトルシェフ』は豆が動かないように加熱できるので重宝しています」

「森のおはぎ」のスタッフのランチは交代制で、工房の2階で賑やかにおしゃべりをしながら過ごしている。
「店舗もあるのでスタッフが入れ替わりながら食事をしています。お弁当を持ってくる人もいれば、パンやお惣菜を買ってくる人もいて食事のメニューはいろいろ。ときには近所のおいしくてリーズナブルなイタリアンに出かけることもあります。社長である主人以外は女性ばかりなので、ランチの時間も笑い声が絶えず、貴重な交流の時間になっています」
日々おはぎ作りに追われてお茶の時間をとることはあまりないそうだが、ちょっとした作業の合間や新作ができたときには、情報交換をしながらご主人とお茶とおはぎを楽しむこともあるそうだ。

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人気のおはぎでお茶の時間

この日、お店に並んでいたおはぎは8種類。大納言雑穀もち、深煎きなこ雑穀もち、ほうじ茶黒米もち、みたらし雑穀もち、くるみ黒米もちの定番商品に加え、黄身かぼちゃ黒米もち、鳴門金時雑穀もち、焼き栗黒米もちの季節限定の味が登場。四角い器に盛られているのは、一番人気の大納言雑穀もち、香り高い深煎きなこ雑穀もち、食べやすさを追求しつつかわいらしい見た目に仕上げた鳴門金時雑穀もち。

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テキスタイルデザイナーの経験を持つ森さんがデザインしたショップカードや巾着袋、植物と蝶々が描かれた紙袋も手土産に喜ばれている。
「テキスタイルデザイナーをしていた経験は何かしら今の仕事にも役に立っていて、おはぎ屋さんのためにやってきたのかと思うくらいです。紙の巾着袋は、ちょっとした手土産に無料で提供できるものがあったらいいな、と思ってデザインしました。植物や蝶々を描いた紙袋は、陶芸作家の鹿児島睦さんにイラストをお願いしたものです。主人が以前していた仕事でつながりがあり、植物と蝶々のイラストをリクエストしました」
森さんが着ている白い服は、一見すると割烹着。けれど実は、街中のショップで見つけたワンピースだ。今スタッフはそれぞれ自前のエプロンをつけて仕事をしているが、いつかこんなお揃いのユニフォームが作れればと考えているそうだ。

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 都会に近い「森」を探してイベントができる拠点をつくりたい

「森のおはぎ」とともに、大阪・北新地の姉妹店「森乃お菓子」、兵庫・伊丹の系列店「キツネイロ」(どらやき専門店)の運営、ワークショップなどのイベントや百貨店での催事、そしてもちろん子育ても、と多忙でありながらも充実した日々を過ごしている森さん。気分転換はちょっとした時間に手を動かせる、刺繍で人の顔を描いたブローチ作りだという。
「ブローチ作りは楽しみの一つですね。疲れていてもつい集中してしまい、寝る時間が遅くなることもあります。これも自己流ではじめたことで、刺繍で適当に顔を描きながら、その布に綿を詰めてブローチに仕上げています」
また、将来独立を目指すスタッフへのサポートも積極的に行っている。
「生み出す喜びをスタッフにも感じてほしいと思い、お菓子作りの研究日を設けたこともあります。彼女たちの夢を叶えるためのサポートも、大切な仕事です」
「キツネイロ」は、そのサポートから生まれた店舗だ。運営は森さんがサポートしているが、お店作りに関しては「森のおはぎ」の元スタッフが主導し店長を務めている。
「今も、新店舗を構想中です。私は、いつか都会に近い『森』のような場所にショップ兼工房を開いて、そこで生活しながらイベントをするのが夢ですね。庭の果樹から摘み取った実を使ったワークショップなどもできたら楽しいですね」

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「森のおはぎ」店主 森百合子さん

VOL.10 下町とおはぎ 「森のおはぎ」店主 森百合子さん

1979年奈良県生まれ。大阪芸術大学工芸学科を卒業後、寝具メーカーに就職し、テキスタイルデザイナーとして活躍。その後、デザイン関係の仕事を経て、おはぎ職人として独立。2010年、大阪・豊中に「森のおはぎ」をオープンする。商店街の中にある小さなおはぎ専門店でありながら、おいしさや、今までにない素材の組み合わせで話題となる。現在は、大阪・北新地の姉妹店「森乃お菓子」、兵庫・伊丹の系列店「キツネイロ」(どらやき専門店)の運営も手がけ、ワークショップなども行っている。

LOCATION 大阪府豊中市

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PHOTOS:SHIN-ICHI YOKOYAMA

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