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郷土愛とあらのみそ汁 「BOOK MARÜTE」代表 小笠原 哲也さん 香川県高松市

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ABOUT

香川県高松市で「BOOK MARÜTE(ブック マルテ)」「MARÜTE GALLERY(マルテ ギャラリー)」「古道具MARÜTE(ふるどうぐ マルテ)」を運営しながら、各地でアートブックフェアを主催する小笠原哲也さん。倉庫をリノベーションした複合商業施設「北浜アリー」を拠点にした、古着、古道具(古美術)、アート、デザイン、ものづくりに携わる人たちとの交流は、香川から世界へと広がっています。

すべての原動力は、好奇心から。自分が楽しいと思える活動を通して香川と世界の橋渡しをしたい

「香川・高松から世界へ出たことで、生まれ育った場所の魅力に気づきました」

いろいろな街でいろいろな人のライフスタイルと出会う、サーモス日和。最近気になることのひとつは、いろいろな人たちのライフスタイルと食のかかわりだ。「食べること」とみんなは、どう向き合っているのだろう。

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アメリカでの古着の買い付けから広がった、アート、デザインとのつながり

本屋、ギャラリー、古道具店のオーナーであり、日本や台湾でのアートブックフェアの主催者としての顔も持つ小笠原哲也さん。世界各地で活動する小笠原さんの仕事の原点は、「好きなこと、得意なことを生かして暮らしたい」と高校卒業後にアメリカへ渡ったことにあるという。
「1992年にアメリカに渡り、古着を買い付けて日本に輸入販売する仕事をしていました。高松工芸(香川県立高松工芸高等学校)出身なのですが、卒業後の進路を考えていたとき、芸大や美大へ進んでもアーティストになれると思えなかったので、『アメリカに行って独り立ちできる仕事を見つける』と両親を説得して、進学のために準備していた資金で移り住みました」
それから10年ほどアメリカと日本を行き来する暮らしになる。
「古着を選んだのは、全体にかかる経費が抑えやすかったから。当時、古着バブルであったことも追い風になりましたね。軌道にのってからは、日本で人気のミッドセンチュリーの家具などの買い付けもするようになりました」
やがてアメリカのお店のバイヤーから日本の古いものがほしい、と注文を受けることが増え、日本やアジアの古道具(古美術)について独学で勉強するようになる。
「古道具(古美術)に関しては独学。もちろんはじめたころは何度もだまされていますよ。その経験を重ねて、まわりからも認めてもらえるようになりました」
その後、東南アジアやインド、ネパールなどを旅するなかで、生まれ故郷である香川・高松の良さを見直し、28歳の時に高松を拠点にすることを決意する。

「ブック マルテ」 「マルテ ギャラリー」は、ものづくりに携わる人との交流の場

「当時の古着ブームが終わりかけて自分のこれからを考えていたときに、香川・直島のアートプロジェクト『家プロジェクト』がはじまることを知りました。古着のほかにも、モダンデザイン、建築、アートが好きだったのですが、考えてみたら、イサム・ノグチは香川に縁があるし、丹下健三の建築も、猪熊弦一郎の美術館も身近にあった。好きなもの、興味のあることがこれだけあるんだったら生まれ育った香川に帰ろうと思ったんです」
香川に帰省してまもなく、その頃オープンしたばかりだった高松港近くの倉庫をリノベーションした複合商業施設「北浜アリー」のスペースを借りることができ、2001年に「古道具MARÜTE」と「MARÜTE GALLERY」、2003年に「BOOK MARÜTE」をオープンする。

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「ここを本屋とギャラリーにしたのは、世界各地で住みたくなるような街には小さくても良い本屋やギャラリーがあったから。高松にもそんな場所をつくりたかった」
店内のインテリアはスタッフと手づくり。店舗に併設されたカフェのテーブルには古いビリヤード台が使われ、小笠原さんが旅をした世界各地の人形、オブジェなどがアーティスティックな雰囲気を醸し出している。
「基本的に写真集やアート関係の本をセレクトしています。読み物の本も装幀にひかれて選んだもの。瀬戸内に関する本もそろえるようにしています」

イベントを通して香川ならではの食材、生産者の活動を伝えていきたい

ギャラリーを運営するようになって、東京で活躍する料理家から香川の食材を使った料理会のイベントの相談を受けることもあるという小笠原さん。
「ギャラリーで主催する料理家さんのイベントを通して、オリーブや柑橘類などを栽培する地元の生産者さんとのつながりも増えました。店が入っている倉庫入口脇に植わっているオリーブの実を収穫して、塩漬けにするのも季節の楽しみになっています」
お店に出勤するときのランチは、うどんやカレーを食べることが多いそうで「一時期、健康に配慮してグルテンフリーの生活をしたこともありましたが、子どものころから食べているうどんを断つことはできず(笑)、集中して仕事と向き合いたいときには、今日のように妻にお弁当を作ってもらうこともあります。香川ならではのおかずといったら、しょうゆ豆でしょうか」
「しょうゆ豆」は香川の郷土料理で、乾燥したそら豆を煎ってから、砂糖、醬油、みりん、唐辛子などを合わせた甘辛い調味たれに漬けたもの。地元では給食にも登場するおかずで、おせち料理に加わることもあるそうだ。
「いりこでだしをとった白みそのみそ汁も郷土の味、おふくろの味の代表格ですね。香川は旬の小魚がつぎつぎと出てくるので、魚料理も豊富です」

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奥さま手づくりのお弁当には、栄養バランスを考えた彩り豊かなおかずがたっぷり。甘辛く煮た黒い色合いのそら豆が、郷土料理の「しょうゆ豆」。「お弁当をのせたお盆は讃岐彫のもの。昔の家には、親戚の集まりなどで使うためにこれが20枚ぐらいそろっていました」

しょうゆ豆とさけのお弁当

わかめご飯、卵焼き、エビチリ、ブロッコリー、カリフラワー、プチトマト、さけ、筑前煮、しょうゆ豆。

女木(めぎ)島の海の家を活用したゲストハウスアーティストイン レジデンス

高松にある、使われなくなったお遍路宿の再生、プロデュースも手がけたことのある小笠原さん。その経験を生かして現在取り組んでいるのが、女木島の海の家をゲストハウスとしてプロデュースする試み。女木島は、高松港からフェリーで20分ほどの場所にある、高松港の目の前に浮かぶ島。その昔、山頂の洞窟に鬼が棲んでいたと伝えられていることから、鬼ヶ島とも呼ばれている。
「今までイベントなどに活用していた海の家をオーナーさんからお借りして、ゲストハウスとしてプロデュースしています。一棟貸しをしたいと考えていて、アーティストが長期滞在しながら制作できるような、“アーティスト イン レジデンス”を目指しています」
女木島は、小笠原さんが子どものころから海水浴に来たり、学校の遠足で訪れたりとなじみのある場所。女木島在住の料理人、松内日出男さんの料理を楽しみにバーベキューをしに来ることも多いのだとか。

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「松内さんは、アメリカ・バークレーのオーガニックレストラン『シェ・パニース』で日本料理のワークショップをした経験を持つかた。イベントや、友人との集まりのときに料理を作ってもらっています。今日は、店のスタッフや松内さんのご家族と浜辺で焚き火をしながら、松内さん特製の『あらのみそ汁』を堪能しました」
「あらのみそ汁」は、香川発祥の“オリーブハマチ”(オリーブの葉の粉末を加えた飼料で養殖したハマチ)でだしをとり、塩で調味して、ふぐ、豆腐、長ねぎ、えのき茸を加えたもの。
「自分で料理を作ることはほとんどないのですが、旬の食材や郷土の味を丁寧に調理してもらえるのはうれしいことですね。香川の食の新たな発見にもつながります」
お店やイベントのスタッフは、小笠原さんを慕って、他県から移り住んできた人が多く、一緒に食事をすることがコミュニケーションの場になっている。

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香川とアジアの「人」をつなぐハブになりたい

台湾でも本屋とギャラリーを運営している小笠原さんにとってのこれからの興味は、アジア。台湾、韓国の若い世代との交流がおもしろいという。
「台湾では、今までもさまざまなイベントをしてきましたが、もっと活動範囲を広げたい。韓国も、本づくりをしている若い世代が頑張っていて、ソウルのアートブックフェアも地元の出店者を中心にした独自のセレクトをしている。参考になることが多いですね。食卓を囲んで交流するのも楽しみで、はじめて食べる台湾や韓国の料理から刺激を受けたり、料理を通して香川の魅力を伝えることもあります」
高松空港から台北、ソウルへの直行便があることから、高松を訪れる観光客に向けたイベントの企画も小笠原さんの代表的な活動に。2019年秋の「瀬戸内国際芸術祭」のオフィシャルイベント、「せとうち アートブックフェア」もそのひとつだ。
「東京を介さずに、おもしろい本を作る人、セレクトする人が香川に集まるイベントのプロデュースを手がけています。新しいかたちで街に定着させたいですね。行政の担当者と何年も積み重ねてきた信頼関係によって、行政のやりたいことが、自分のやりたいことにつながってきました。さまざまな国、地域に出かけても、香川を拠点にすることはこれからも変わらないと思います」
香川を、自分自身をハブにして、若い世代が自らの活動を発表できる場をつくることが小笠原さんの楽しみであり、日々のモチベーションになっている。

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小笠原 哲也さん

VOL.06 郷土愛とあらのみそ汁 「BOOK MARÜTE」代表 小笠原 哲也さん

「BOOK MARÜTE(ブック マルテ)」「MARÜTE GALLERY(マルテ ギャラリー)」「古道具MARÜTE(ふるどうぐ マルテ)」代表。香川県高松市内の高校を卒業後、渡米。アメリカで古着、古道具などを買い付けて日本に輸入をする仕事を友人とはじめ、1995年高松で古着屋を開業する。日本と海外の古いものを輸出入する仕事がベースとなり、世界各地を飛びまわる生活に。2001年、高松市内の倉庫をリノベーションした複合商業施設「北浜アリー」に拠点を移し、「BOOK MARÜTE」「MARÜTE GALLERY」「古道具MARÜTE」を運営。2017年には出版レーベル「Pilgrim」を立ち上げ、写真集などの企画、制作、発行も手がける。2019年春、女木(めぎ)島にゲストハウスを開業予定。

LOCATION 香川県高松市

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PHOTOS:SHIN-ICHI YOKOYAMA

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