闇夜の低山で野生動物になる

  • 2024.02.13
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僕の山登りの楽しみ方のひとつは夜の山を歩く事。もちろん道迷いなど様々なリスクはあるけれど、それでも僕にはなくてはならないチャージタイムです。目を閉じて歩いても道迷いをしない熟知した低山で、日暮れが早い冬で雪が降っていないタイミングがベスト。
この日は天気にも恵まれたパーフェクトデイ。頂上に着いてひと休憩したころにサンセットが始まるスケジュールを逆算して麓から登り始める。今回登った山は東京都の高尾山。相棒のクマ(犬。以降クマと記載)も終始尻尾を振りながら歩き、鼻をクンクンさせて歩いている様子からすると今日はいつになく機嫌が良さそうだ。
クマとの日々の散歩は面倒くさいけど、山の散歩は好き。ワガママな自分に少しだけ反省…。
僕が休憩をするタイミングは、クマもその時間。僕が歩く時間は、クマも歩く時間。時々フライング気味にクマが出発したがったり、僕のおやつを盗み食いしようとしたりと、自由でありながら常に少しだけ気を遣い合っている感じがなんだか僕達らしい。
おやつをあげるときだけはしっかりと僕の言うことを聞くクマ。
僕が「地獄の階段」と名付けている、ため息が出るほど長い階段を登ったところが山頂。ケーブルカーもある山なので、この日は山頂でたくさんの人がカメラを構えてサンセットを待っていました。サンセットには不思議な魔力があって、太陽が落ち始めると雑音だらけの周囲が日没のスピードと同調するかのように静寂になっていく。
地獄の階段は、四輪駆動のクマの方が得意。
サンセットは地球と宇宙を感じるから僕は大好きだ。知らない誰かと無言でこの素晴らしさを共有しているのもなんだかいい。
人々がケーブルカーの最終便に乗るべく少しずつ人が減り始める時間。このまだ少し明るいこの時間からが僕とクマの時間だ。茶屋で山菜たぬきそばを買い、木のベンチテーブルに腰を下ろしてゆっくりと汁をすする。モワモワと僕の口から吐き出される湯気が、暖冬とはいえ今が冬であることを感じさせてくれます。
普通のそばだけど、山頂と景色が味を数段引き上げてくれる。
外気が寒すぎてそばをすすると少しむせそうになる感覚がこのそばの旨さの秘訣なのかも。
僕のメインディッシュは、バックパックに忍ばせてきた懐中しるこ。冷えたシェラカップにボトルから熱湯を注ぎ温めたらこのお湯を冷ましてクマに。温まったシェラカップに懐中しるこを入れて再び熱湯を注いだら完成だ。再び冷え始めた身体に甘さと暖かさがじっくりと広がっていく。冷えた身体が人間味を帯びてくるこの数秒の時間がとても幸せだ。待ち時間にはもちろんクマにもおやつをあげる。
忍ばせておいた懐中しるこは山では贅沢なデザートだ。
お湯を注いでいるときから和の甘さの匂いが鼻の奥を刺激します。
下山からが今回の登山の目的。人の気配が完全に消えた登山道は、耳がキンとなるほど静かで、偉大な自然の世界に僕とクマが迷い込んだかのような気持ちにさせてくれる。時々聞こえる野生動物と草が擦れる音。それに合わせてクマが「グーッ」と威嚇をはじめる。闇夜の森の奥に何を感じているのかは分からないけど、僕は自分の犬にもちゃんと野生が残っていることが嬉しかった。
月明かりは神々しく、そして頼れる存在。
どこまでも闇が続く奥深い森を覗くと少しゾクゾクする。そして、空を見上げると月明かりを感じられ逆に少し安心する。この繰り返しは、20数年前にアフリカの自然の中で迷子になったときのことを思い出す。
森が発するあらゆる刺激をクマとふたりで味わう。
人間社会の時間や音から少しずつ自然に身体が馴染んでくると、自然の中の音も少なく光も無かった森が、自然の音と月明かりで満ちてくる。まるでさっきまでいた世界とは全く違う世界に変わったようだった。
間もなくゴールというタイミングで、お土産やそば屋エリアに入りはじめた。ゴーストタウンのようでほんの少し人の気配がある空気感が、急激ではなく、ゆっくりと僕を日常に再チューニングしてくれました。まるで少しずつ野生動物から人間に戻っていくような感覚にも近い。
解放された五感と日常の狭間のこの両方とも鋭くなっている感覚はある種のトランス状態で、僕はこの状態が好きだ。次々と新しいことを生み出せたり、今をより深く考察できるような感覚にしてくれます。
街の夜景が見える頃には、この登山のクライマックスも近くなってきたしるし。
静かなお土産屋さんとそば屋さんが立ち並ぶ通りを抜ければ今回の山旅の終わり。
最近少し焦り気味に走っていた事もあり、忘れかけていたこの感覚になったことで少し冷静に、そして反省することができました。もう少し近所の森でもいいから夜の森を歩かないとなあ…。でも、雪山にも行きたい!


この記事へのコメント

メレンゲ

懐中しるこ 食べた-い!!

ゆーだいすきかあさん

静かに自分と対話ができそうですね

みみたろう

お汁粉の登場に親近感がわいてきました(笑)

なみや

写真も美しく癒されました。もっともっと知りたくなりました。

いりこ31

今年こそ山登りをしたいと思っています。
足腰が不安なのですが、少しずつ登れる低い山から挑戦してみたいです。
夜の山登りはワイルドですね!

かぐや姫

山歩きの非日常感は独特ですね
追体験させて頂きました
ありがとう

いちご

とても、楽しそうですね!

mii

素敵な時間ですね

  • 長谷部 雅一

    ありがとうございます。
    本当に素敵な時間でした!

コーヒーブレイク

自然と一体感の生まれる散歩、いいですね!

  • 長谷部 雅一

    はい。まさに!
    自然の中だといつもよりもリンクするような気がします。
    おそらく僕がリラックスできているからなんでしょうね。

はる326

低山散歩、新たな発見がありそうですね。

  • 長谷部 雅一

    はい。いつもの低山も、色々な時間、季節であるくと毎回素敵な発見をすることができます。
    山は飽きないですね〜

ポンちゃん

夕暮れ時の低山良いですね!

  • 長谷部 雅一

    本当に良いです!
    低山の楽しみ方としては、オススメです。

ぽんで

クライマックスは感動的でした。

  • 長谷部 雅一

    そういっていただけると嬉しいです。
    日々走っていると、本当にこういう時間は大切だなって感じます。
    身近なところでも、チューニングしてみてください。

スッチー

良いです。

  • 長谷部 雅一

    ありがとうございます。

ミキ

山登り×山菜そば×おしるこ=最強‼︎

  • 長谷部 雅一

    はい。最強でした!
    シンプルでベタなこの感じのそばとお汁粉がなんともたまらないんです。
    また山上り×○×○を探そうと思います。

ほな

全国低山紹介の企画がいいですね。大阪は天保山。

  • 長谷部 雅一

    ありがとうございます。
    いいですね。地方移動の際など、たくさん低山を登ってしょうかいさせていただきますね。

江戸っ子

クマが威嚇した先にはどんな動物がいたのか気になる~
お汁粉でカロリー補給、いいですね!!

  • スッチー

    良いです。

  • 長谷部 雅一

    クマが感じた「何か」僕も気になっていました。
    臆病なので、ヒメネズミ程度なのかもしれません 笑

hirune

低山たのしいですよね~
相棒もいるなら安心ですね

  • 長谷部 雅一

    相棒がいる山のぼりは楽しかったです〜
    また行こうと思いました!

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