第27話 B面の時間が始まる(後編)

  • 2017.02.27
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前回からの続き~

風が吹けば桶屋が儲かる、という言葉がある。連鎖反応の果てに、思いもよらなかった結果を生じる事の喩えだけど、アメリカンコーヒーについても同じようなことが言える。 それは、
「イギリスとフランスが戦ったら、アメリカンコーヒーが生まれた」
ちょっと無理があるかもしれないが、でも実際に起こった話だ。
18世紀、英仏はある植民地の取り合いで戦争をしていた。 その植民地とはアメリカ。英国は勝利を収めたが、戦争で大きな借金も抱えた為、植民地アメリカに様々な重税を課す。その一つが紅茶だ。
さらに英国は、とある貿易商社が扱う紅茶だけを関税ナシとした。 その商社とは倒産寸前の東インド会社。昔授業で聞いた事ある名前でしょ? 関税ナシなら植民地側にとっても安く手に入るので喜ばれそうなものだが、事はそう上手くは運ばない。
植民地アメリカの住民は多くが英国からの入植者。新天地においても英国の「紅茶を嗜む文化」を持ち込んでいる。いわば必需品だ。 だから既に自力で紅茶を輸入販売する多くの商人がいたのだ。 国策で必需品に関税をかけ、さらに特定の商社だけを優遇し、自分達より激安の紅茶を流通させるなんて、とても許せることじゃない。 繰り返される英国の振る舞いに対し、植民地アメリカはブチ切れた。

例の紅茶を積んでボストン港にやって来た東インド会社の船を、住人たち数十名が襲撃し、なんと積み荷の紅茶を海に投げ捨てたのである!「ボストン港をティーポットにしてやる!」って叫びながら。 多くの住人も「あれはお茶会をやっているんですよ、と傍観したとか。 それでこの出来事は「ボストン茶会事件」と呼ばれるようになる。これに対し英国はボストン港を閉鎖するなど軍政下に置き、強硬な姿勢をとった。 こうなると一触即発。そして遂に英国軍と植民地アメリカの民兵が衝突してしまう。これこそがアメリカ独立戦争勃発の瞬間だ。
人々は紅茶を拒否した。それは英国を拒否することを意味したからだ。茶葉自体も手に入らなくなった。だが一方でティータイムそのものは手放せるものではかった。 そこでコーヒーが代用品として拡がることになる。あくまでも紅茶の代わりなので、それは紅茶のように軽やかな味わいが好まれる。 結果、浅い焙煎の豆を少なめに使って抽出、そんなコーヒーのスタイルが根付いてゆくのであった。

アメリカンコーヒーの源流は、こうして誕生したのである。

アメリカンをブレンドのお湯割りだと思っている人がいるが、それは日本人がそう解釈しているだけ。 本来はそれ自体が軽やかな作り方のものであり、決して薄めたものをアメリカンと呼ぶ訳ではない。 そもそもアメリカンという表現さえ日本の造語なので、USAでは通じない。 それはアメリカ製という意味なので、敢えて当てはめるなら、例えばハワイコナがアメリカンだ。こうなるともう訳が分からない。

と、ここまで詳しく語った訳ではないのだけれど、そんなことを僕は酔った勢いで話した。カメラマン氏も面白がって聞いてくれて、僕は上機嫌だった。 エルヴィスのB面、アメリカンコーヒー、他愛も無い話。カフェイベントの一日は、こうして穏やかに心地よく過ぎていった。


この記事へのコメント

みやねこ

学校では習わなかったお話ですよね☕
もっと聞いてみたいです(゜∇^d)!!

*

そうなんですね。
アメリカンコーヒーの由来がわかりました。

よもちゃん

歴史とティータイムがつながるのって面白い!昔も今もホッとタイムは必要なんですね!

ほな

B面なんて懐かしい。

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