当店にはさまざまな経歴や背景を持つお客さまが来店されます。そんな中の一人、近頃よく来てくれる馴染みのお客さまに、俳優を志す20代の青年がいます。彼は大学を卒業後、多くの人が就職して社会人となっていくところ、あえて老舗の劇団に所属する道を選び、現在は研究生として研鑽を積む日々を過ごしています。先日行われた所属劇団の公演では、キャストに選ばれて出演することが出来ました。もちろん主役ではなく、いわゆる脇役の一つを演じたのですが。でも舞台に立つ機会を得たことは、彼にとって非常に大きかったはずです。
これは僕の勝手な妄想ですが、いつか彼が名脇役と呼ばれるような俳優になったらいいなぁなんて思っています。本当なら名作と呼ばれるような作品で主役を張っているくらいの、大きな未来を願う方が良いのかもしれませんね。でも何と言うか、ピカピカの主役よりシブい脇役の方がかっこよくないですか?もちろん主役は凄いことだと思います。主役は絶対的な力量やオーラみたいなものが備わっていないと務まらないですから。でも僕は、そういう力を自分のためじゃなく、主役を引き立てるために発揮して作品に貢献しているような人=名脇役の方に魅力を感じるんですよね。
コーヒー界隈でも「スペシャルティコーヒー」というものが注目を集めて随分経ちます。これはコーヒーの世界の上位数%しかない、まさしく“特別な”コーヒーで主役級の存在です。スポットライトの下、大女優たちが競い合う煌びやかな舞台というイメージでしょうか。そこではフルーティーで華やかな香味を持つコーヒーほど上位、という価値観でコーヒーを評価します。土地柄と言いますか、近隣にはスペシャルティコーヒーを扱う店もそれなりに多く、主役級のコーヒーたちを求める人々が集まっています。
僕の店はどうなのかと言うと、コーヒーが主役になることはないです。この店自体もハレの舞台などではないし、日常の延長線上にある「もう一つのリビングルーム」のつもりです。では主役は何かと言うと、それはいつだってお客さまであり、僕の淹れるコーヒーもただの脇役に過ぎないと思っています。ただし、単なる脇役で終わる気もありません。願わくば僕の店も、僕の淹れるコーヒーも『お客様にとっての名脇役でありたい』と思っています。それも、来店されたお客さまがその日を振り返った時に「今日もまあ、わるくない一日だったな」と思える、その起点となる場所でありコーヒーでありたいと思っています。
これは最初からそう言い切れた訳ではありません。初めのうちは僕もスペシャルティコーヒーに魅了され、コーヒー同士を比較し評価し合う世界観の中にいました。でもコーヒーだけじゃなく、つい自分と他の店の焙煎を比較してしまい、いつも自分にダメ出しをして落ち込んだりしていました。でも今の店を開業する頃に「比較して落ち込むくらいなら、見なきゃいい!」と思いつき、他所のコーヒー屋を一切訪れないことにしました。そこから幾年月が流れ、ふと気付けば誰かや何かと比較することをしなくなっていました。理由はとてもシンプル、いつの間にか自分に自信が付いていたのです。
誤解なきように言うと、決してスペシャルティコーヒーの批判ではないです。高みを極めていくことは重要で、誰かがやっていかなければならないことですから。僕の場合は、自分の強みを活かしてやっていく時に、自分自身の価値観を自分の中に育む必要があったということです。どんなに小さくても積み上げていった何かがあれば、人はそこに活躍の場を生むことが出来ると思うのです。俳優志望の彼ですが、普通の大学生からの転身?ゆえ、キャリアの浅さを弱みに感じているようでした。でもそれはたぶん、取るに足らないことですよ。しまって行こう♪
この記事へのコメント
かぐや姫
お店をやってらっしゃるのですね
いつかお邪魔できたらいいな
私も人生の名脇役を目指したいです!
コーヒーブレイク
招き猫の写真に、平和をしみじみ感じます。世界中の人が美味しいコーヒーを心から安心して飲めますように。
ぽんで
何事もコツコツと積み上げることが大事ですよね。
hirune
果てない追及ですね
ほな
渋いですね、コーヒーのごとく。