それじゃあなんだかズルした気分になる

  • 2023.07.11
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「長谷部家が娘に残せるのは旅の思い出くらいだよね」娘の宿題を見ているときに説明のしかたに困る昨今、ビールを飲みながら妻とそんな事を話していました。ある日、「明日自転車で静岡(妻の実家)行ってみようか?」夕飯を食べながら何気なく娘に話しかけてみると、「納豆食べる?」と聞いたときと同じくらいのテンションで「うん」と返ってきました。
その晩、この機を逃したらもったいないということで、妻と僕は慌てて作戦会議をはじめ、旅出発の準備で朝を迎えます。
今回の目的は、自宅がある神奈川県の相模原から静岡県の清水にある妻の実家まで自転車で行くこと。進み具合を見ながら宿の予約をしてどこかで宿泊。1泊2日でゴールに向かい、帰りは伴走係の妻が乗ってきた車に自転車を乗せて帰るというスケジュール。
まだ眠くて不機嫌な娘と自宅を出発したのは朝5時30分過ぎ。ほどよく走ったところで妻の仕掛けが発動します。メッセージつきの手づくり弁当をふたりでほおばって心も身体もひと充電し、地図を広げてこの後の道のりを確認したら再び漕ぎ始めます。
眠そうで不機嫌な娘と出発。おそらくこの時父だけ嬉しい…。
妻の仕掛けその1発動。旅はやっぱり手作り弁当が嬉しい!
紙地図で通過ポイントとこの先のルート確認。デジタルにはない旅感の魅力があります。
走ること数時間。気温の上昇と共に身体がヒートアップして体力はどんどん下がります…。そんな時はボトルに入れたお茶を飲み、氷で満たしたもう一本のボトルの中で水道水をキンキンに冷やして頭に振りかけます。僕は冷えた炭酸を身体の中に流し込んでクールダウンしてリスタートします。
ほんの少しだけ大きくなった(気がする)富士山を見ると元気が出る!
氷とドリンクの補充。はこの旅の重要ポイント。
神奈川から静岡への道のりは、天然の城壁、“魔の峠”を越えないとゴールにたどり着きません。だんだん坂道が急になり始め、娘は何度か涙を流しながら自転車を押しながら御殿場付近に入りました。ドリンクを飲み、地図を広げながら娘と今晩どの辺に泊まって明日ゴールを目指すのかを相談します。真剣なのに、娘の顔はいまいち晴れない様子…。年頃の娘の難しさとこの雲行きが悪い感じはもうじっくり腰を据えて向き合うしかありません。
坂道がキツくなると自転車を押して歩くしかありません…。娘の自転車は重いので僕の自転車と交換して押し進めます。
「今日泊まったら一旦終わりでしょ?明日じゃちゃんとゴールした感じがしない…」つまり、娘はこのまま清水まで泊まらずに一気に行きたいということらしい。僕は覚悟を決めて、娘と一緒にこの先の距離、そしてリスクや大変さをしっかりと共有します。まだまだ80キロ近くある道のりを行くと決めた娘の中に流れる血の半分は僕の血です。二人でペダルを踏み始めました。
危険な幹線道路沿い部分をよけて、旧道の山道を進む。これがまた旧道だけにしんどい…。
ここからゴールまでの道のりを走りきるためのポイントは、御殿場から沼津までのほぼ下りの20数キロの道のりです。ここでほどよくスピードを上げて、さらに心と身体を回復させられるかがゴールへの鍵になります。娘が先頭を走り、僕は周囲を見ながら後ろを走る。「やっほー!!パパこれ楽ちんだね〜」先ほどのクタクタの顔とは打って変わって、髪の毛をバタバタと風でなびかせながら叫ぶ娘の声が元気で少しほっとします。
日が暮れ始めた頃にやっと沼津入り。
沼津からは海岸線を走ります。当初は朝の心地良い海岸沿いを走る予定が、波音と風が襲いかかる真っ暗で荒々しい海岸線を走り、少しずつ海の先に見える街の明かりがある方へペダルを進めます。
妻の仕掛けその4くらい。途中のコンビニでリアル妻に合流して充電タイム。ここから夜の海岸沿いへ。
音と風と匂いしか海感を感じられない海岸線沿い。
ラストスパートの2時間。最後の峠は街灯もなく真っ暗な森の中を自転車を押しながらのぼり、登ったらやってくる下りはブレーキ音を響かせながら進みます。会話はいつもと同じくらいそんなに多くはないけれど、なんとなくお互い何を考えているのかが分かるような感覚になってきている気がします。
コンビニで温かくて甘いコーヒーを飲んでいるとき、「ねえ、今日中って何時までだっけ?」疲れすぎて頭の整理がつかない娘の質問に僕は「夜の12時になったら明日だよね。」となるべく普通に返答します。娘はまだ“今日中”を狙っていたのだ!
見覚えがある景色を走り、ゴールしたのは夜の11時58分。どうにか今日中に到着しました。走ったのは約160キロ、かかった時間は18時間強でとうとう娘は走りきってしまいました。無言のハグにハイタッチ。二人の目尻からは小さな涙が少しだけ流れます。涙を拭いて、一呼吸置いてから妻の実家の呼び鈴を鳴らしました。
“明日まで2分前”のゴール!娘にとってどんな思い出になるのだろう?
翌日の娘は筋肉痛もなく楽しそうに過ごし、僕は激痛が走る足を引きずりながら朝一番からお仕事開始。また全く別々の時間が流れ始めたけど、なんだか僕にとってはいつもとは違う日常が始まった気がしたのでした。
さて、次はどんな冒険を一緒にしようかな?…いや、付き合ってくれるだろうか?


この記事へのコメント

りょう

チャリ旅最高!
子供の頃の最高の父親との思い出を思い出します。
父の年になって思う…父、ありがとう!!

ほな

お子様の達成感がたまらんです。

ゆらん

素敵な家族で憧れます。

ミキ

娘さんと一緒なら何をしても楽しいですね!奥さんの愛も感じる〜!!!

タイブレーク

親娘で励まし助け合いながらゴール。娘さんはまた一回り成長することでしょう。

ほな

奥様が一番元気ですね。

公園大好き二児の母

絶対に忘れない記憶に残る旅、最高です!!お写真から、とても暖かい気持ちが伝わって、幸せな気持ちになります!ありがとうございます(^^)

よしゴンクス

親と一緒の自転車旅って、貴重な体験ですね!
こんな父親に憧れます。

ほな

お嬢さんの正直な表情はいいです。

おかめ

こういう家族に、憧れるな❗️

江戸っ子

筋肉痛も含めて 素敵な思い出の一頁ですね。
親子で行動できる時間を謳歌していますね♪

ほな

お父さんの笑顔がいいね。

ゆーだいすきかあさん

すごい

みぃみぃ

とても貴重な娘さんとの旅! 一緒忘れられない良い思い出になったでしょうね♪

ポンちゃん

きっとかけがえのない想い出になることでしょう! 素晴らしい報告でした。

ぽんで

素晴らしい親子体験だと思います

コーヒーブレイク

やりましたね!自転車こぎって人を引き込んで離さない魔手がありますよね。

hirune

最高の一泊二日旅行ですね!

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