第72話 珈琲言葉は『禁断の恋』?

  • 2019.02.04
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前回に引き続き、今回もコーヒーの背景に見え隠れする『珈琲言葉』について、想いを巡らせてみたいと思います。

コーヒー豆を世界で一番多く生産している国、それは南米の大国ブラジルです。その量は世界の全生産量の33%、3分の1にも及びます。一時期はシェアが8割に達していた時もあったそうなので、ブラジルとコーヒーは切っても切り離せない関係です。今でこそそんな一大産地ですが、実は18世紀までコーヒーの木は一つもありませんでした。ある「禁断の恋」までは…。
前回コラムでもご紹介した通り、コーヒーの起源はエチオピアです。それが17世紀にオランダやフランス、イギリスなどヨーロッパで広く嗜まれるようになると、エチオピアから輸入するのではなく、自分たちの植民地で栽培するようになっていきました。同時に苗や種子の持ち出しは制限され、禁を破れば処刑されることもありました。しかしコーヒーの魅力は人々を惹きつけ、消費は拡大する一方でしたので、その他の国もコーヒーの木を何とか手に入れたいと思っていました。そのひとつが当時ポルトガル領だったブラジルでした。

1727年、フランス領ギアナとその隣のスリナムという国の間で、国境を巡る紛争がありました。ブラジルはちょうど両国に隣接していたこともあり、紛争を解決するための調停を依頼されました。要はケンカの仲裁役を頼まれた訳です。そこでブラジルは軍の士官をフランス領ギアナに派遣しました。使節として送り込んだのですね。でもこの時、士官は紛争の調停という役目以外に、もうひとつ重要な密命を仰せつかりました。それは「フランス領ギアナで栽培されていたコーヒーの木を入手する」というものでした。
この士官、交渉術に長けていたようで、ギアナの総督を相手に無事調停を成立させました。またこの滞在を通じて総督の夫人にも近付き親しくなったのでした。どうも士官はかなりのイケメンだったようで、ギアナの高官夫人たちの間で人気だったなんていう話も。総督夫人はこの士官とイケナイ恋に落ちてしまいました。ある日士官は総督夫人に「コーヒーの木を手に入れたい」という想いを打ち明けます。恋は盲目と言いますが、総督夫人はイケメン士官の想いに応えるため、ある大胆な行動に出たのでした。

それは、士官が帰国するにあたって、ギアナの総督が催した晩餐会での事。調停に関する一連の功績に対し、感謝の意を込めて、総督夫人から士官に花束の贈呈がなされたのですが、なんと夫人はその花束の中にコーヒーの木の苗をこっそりと忍ばせていたのでした!大勢の人々の目前であるにも関わらず、極秘に進められた作戦?は見事に成功。この花束が、数百年後にブラジルでのコーヒーの繁栄をもたらす直接のきっかけとなったのでした。
世界の、というよりこの地球上のコーヒー消費を支えている一大産地ブラジル。そのブラジルのコーヒー豆が、まさか禁断の恋によってもたらされたという事実に、人間の“業”や面白さを感じずにはいられません。もっともその後のブラジルでは、例えば日本人の入植者によるコーヒー栽培への多大なる貢献だとか、二度の世界大戦との関係など、様々なターニングポイントがありました。だから「ブラジル」のコーヒーを振り返ると、イメージされる珈琲言葉はとても多様です。でもやはり “禁断の恋” は外すことの出来ないキーワードかな、と思うのでした。



この記事へのコメント

ほな

禁断の恋 いい言葉です。

ほな

ブラジルのコーヒーに歴史を初めて知りました。日本はちょっと無理ですね。

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