第42話 ある意味、想い出話

  • 2017.10.16
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以前、「アメリカン」コーヒーのことを話したけれど、今回はその続編を。歴史的な話ってドン引きの人もいるだろうけど、今回は敢えてそんな話。なぜそんなにこだわるかと言うと、コーヒーが、米国だけでなく世界中で一般化したきっかけとも言えるから。 今回は歴史の話と言うより、コーヒーの神様がいるとしたら、その人(人じゃないか)の想い出話ダイジェスト版だと思ってもらえたら。 「ったく、人間てヤツは…」みたいな話ね。
「アメリカン」なコーヒーが生まれる最初のきっかけとは、ある事件を発端にコーヒーが「紅茶の代用品として」広まったことだ。でも当時のコーヒー豆は高価で、まだ一般大衆がガブ飲みするようなものではなかった。それに紅茶自体が英国貴族階級のたしなみにたいする強い憧れでもある。物事がシンパシーやコンプレックスのままでは、それ以上にはなり得はしない。それらを突き抜けてコーヒーがこれほどまでに一般化したのは、大きな二つの出来事が絡み合った結果だと言える。ちょっと粗っぽい説明になるけれど。

まず鉄道や蒸気船の発達により、鮮度を保持した輸送が可能となる。ここで言う鮮度とはあくまでも生豆の状態での話。当時のコーヒー豆は現在のように焙煎されたものではなく、生豆で消費者の手元に届いていた。つまりコーヒーとは基本「自分で焙煎して飲む」ものだったのだ。毎回自分で焙煎って、さすがに面倒。だから19世紀後半には焙煎済みのコーヒー豆が発売されるようになる。大型の焙煎機が開発されたのだ。
流通と製造、つまり産業としての「仕組み」が生み出され、「効率化」していったことが一点。

更に20世紀に入り、もう一点重要な出来事が進む。それはブラジルと米国を巡る強者弱者の物語。

当時ブラジルではコーヒー豆の過剰生産が問題となっていた。ブラジルは世界の生産量の70%以上を占めていたため、過剰生産による価格下落は構造的に問題だった。そこへ「余った豆を買い取るから僕ら側に付かないか?」と甘いささやきで持ちかけた国が現れる。それは米仏の連合国。第一次世界大戦勃発の直前のこと。そして大量のコーヒー豆が米国に渡る。キナ臭いコトにコーヒーが巻き込まれていく、歴史の1ページ…。

米国は買い取った大量のコーヒー豆を「兵士の飲み物」として大量消費した。更にその後、禁酒法の時代もやってきたことで、コーヒーは酒の代わりに嗜む「一般的な飲み物」として決定的かつ本格的に拡がった。結果、あんなに困っていたブラジルでは、なんとコーヒーバブルも到来する。

でもバブルは決して長くは続かない。1929年に起きた世界大恐慌で、コーヒー豆は大暴落をする。またもや困ったブラジル政府。そこで今度はある巨大多国籍企業に救済を申し出た。それが後にインスタントコーヒーで有名になる某企業。某企業はその豆をインスタントコーヒーの原料にし、翌年にスイスで、次の年には米国で販売に乗り出した。そのインスタントコーヒーは世界中でヒットし、巡り巡ってその後日本でも「違いが分かる男」ってやつを大量に生み出していく、と。
すんごいザックリまとめると、アメリカンなコーヒーが一般化したのは、流通と製造の「仕組みの効率化」に、戦争と経済という「ある種の強者の論理」が相まった結果という訳です。

一杯のコーヒーの向こう側にも、人間の持つたくさんの英知や欲望が積み重なっています。だから時としてあんなにほろ苦いのでしょうか。でもきっと、そんな人間達を温かく見守ってくれているはずです、コーヒーの神様は。




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