第194話 レシピという名の往復書簡

  • 2024.02.08
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日々コーヒーを取り扱う中で、いつも「コーヒーの好みは人の数だけある」という言葉を意識しています。理想的にはそれぞれの好みに合う「美味しい!」を提供したいと思っています。でもお客さまの視点から見てみると…お店でコーヒーを選ぶ時、そこにある限られた種類の中から“好みに近いコーヒー”を選ぶしかなく、その味はストライクゾーンだったとしても、“ど真ん中”ではないかも知れません。そこで淹れ方を変えることで、その味わいを可能な限りど真ん中へ近付けていったら、どうなるのか…。今回はあるお客さまに出している「一杯の珈琲」について。
当店はマンデリンなどの深煎りが得意。その一杯には欠かせぬ存在となりました。
Kさん(仮名)は大手企業を退任後、今は悠々自適の日々を過ごす(といった感じの)男性です。初めて来店された時にどこかピリッとした空気を感じ、緊張しつつ一杯を仕上げました。すると帰り際「昔飲んだコロンビアの味を思い出したよ」と一言。その後たびたび来店されるようになり、必ず飲んだ感想を伝えてくれました。それは例えば「もう少し温度が低いともっと良くなるかもね」といった感じに具体的で、ご自身の経験と好みを反映したものでもありました。
淹れ方が安定するほど、わずかな量の差も味に現れます。味を変えるにはそれを利用します。
コーヒーを飲まれる度に少しづつ明らかになる味の好みを踏まえ、僕は少しずつお湯の温度や注ぎ方などを変えていきました。最終的に分かったのは、深煎りでエスプレッソのように濃厚、温度は低めでそれが穏やかに冷めていく変化を味わう、という好みでした。でもそれはもう一般的なハンドドリップの淹れ方では表現出来ないモノ…。ある時、過去に一度だけ試したことのある濃厚なドリップ方法を思い出し、それを試したところお気に召して頂けました。現在ではそのレシピを更に修正していき、遂にKさん専用レシピに辿り着きました。
当然、湯温も味を決める大事な要素。低めだと昔の喫茶店の味わいのよう。
ちなみにこんなレシピです…

使用豆:マンデリンまたは東ティモールなどの深煎り(注文による)
粉 量:16g(通常15.5gよりも0.5g多い)
湯 温:86℃(通常91℃よりも5℃低い)
抽出量:96cc(通常215ccの半分以下・確認用6cc+提供90cc)

・蒸らしでは湯をポタポタ垂らして行き渡らせる点滴法で注ぐ。
・約40秒で下から湯が滲み出てきたら、一旦止めてそこから30秒蒸らし。
・細めの湯を3回に分け中央からゆっくり回し入れる。96cc抽出したら終了。
・カップはオールドパイレックスの、フチが肉厚で小ぶりなマグカップを使用。
・事前に湯を注ぎ温めるが、サッと冷たさを取る程度で絶対に温め過ぎない。
点滴法は主にネルドリップという抽出で用いるやり方。コクのある味わいになります。
カップ1杯分の粉であえて半分しか抽出しないと、抽出初期に出てくる濃厚なエキスを味わえます。それを低い温度で行うとまろやかな味になります。ただぼんやり弱くもなりがちなので、それを補うため点滴法やゆっくりした抽出で、芯のある味わいにします。また冷めていく温度変化を楽しまれているので、通常冷めにくいようにしっかり温めるカップも、あえて冷たさを適度に残します。勿論その残し具合まで調整しています。フチが肉厚なカップを使うのは、まろやかさを感じやすいのと、急激に冷めないようにするためです。しかし理屈っぽいなぁ…笑
少しずつしか湯を注がないので、水位の痕跡も低め。撮影しながらなので少し乱れましたが。
Kさんには幾つかの思い出のコーヒーがあり、そして明確な味の好みもありました。それだけに他のお客さまよりハードルも高くなりピンポイントですが、幸いなことにその好みに応えられる豆と焙煎環境、そしてドリップの経験と探究心が僕の店にはありました。たまたま手持ちのネタで何とか出来たというべきでしょうけど。実はそれまで自分のコーヒーにどこか自信が持てないままだったのですが、「これだけのコーヒーを淹れられるのだから、自信を持っていい!」と言ってもらえたことは、ささやかで大きな僕の財産です。
いつもはファイヤーキングのカップですが、この淹れ方の時は70年代の米国で使われていたパイレックスで。


この記事へのコメント


くらげ

自分の好みがこれだけ明確なのはすごいですね。
いつも適当にドリップしているのがちょっと恥ずかしくなりました…


いちご

こだわりのコーヒー!美味しそうですね。薫りも気になりました!


ミキ

黒田さんのコーヒーは一度飲んでみたいです‼︎


めるしー

とても興味深いです!!


江戸っ子

コーヒー店のオーナーに自分好みのコーヒーを入れていただくのって、嬉しいでしょうね。


ぽんで

コーヒーは本当に奥が深い


チャロパパ

楽しそう


かぐや姫

あぁまたコーヒーが飲みたくなってきた!


コレステロール

美味しいコーヒー飲んでみたいです。


なおたぐ

飲んでみたいです。


定年ゴルファー

現役サラリーマン時代に営業先の土地でじっくりとコーヒーを飲むのが好きでした!


おこめ

こだわりの一杯いいですね


ぴろるん

思い出の一杯を作れるなんて、なんて素敵なことなんでしょう!!
いつか、お店に行かせていただきたいです!!


ポンちゃん

一杯のコーヒーでも奧が深いですね! 探究心とそれを極める技量に感服しました。


あきら

何気なく飲んでる美味しさの幅の深さを知りました。
自分のど真ん中を探してみたいです。


スッチー

良いです。


だあきち

こだわりのお客様と一緒に作るコーヒー、素敵です(^^)


ヨー

こだわりの一杯。カップ素敵ですが、レコードコースターもおしゃれです。


コーヒーブレイク

ころんとした感じのカップの感触、伝わってきます。うつわの肌の透明感もありますよね。


はる326

飲むまでの作業も楽しそうですね。


hirune

こだわってみたくなりますね~

  • スッチー

    良いです。

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