第142話 奇跡なんて簡単に言えない

  • 2021.12.16
  • 3212
  • 5
様々な変化をもたらした2021年もまもなく終わろうとしています。昨年に引き続き、今年も多くの方がコロナ禍の影響を受けた一年だったと思います。公共の場での振る舞い方やコミュニケーションの変化、様々な制限・制約、相次ぐ延期や中止、産業や経済の停滞などなど。しかし私達の日常は大変な出来事ばかりではありませんでした。知られることもない幸せな出来事だってたくさんあった一年でした。そしてある家族のもとには、本当の“奇跡”さえ訪れたのでした。
何があろうと陽はまた昇ります
それはちょうど1年前、昨年のクリスマスイブのこと。都内在住30代男性のAさんは具合が悪くなり、病院へ緊急搬送されました。血中酸素濃度が低下し、肺の機能が不充分な状態でした。奇しくも世間はコロナ感染の第3波が大きなうねりを見せ始めていた時期。当然コロナが疑われましたが陰性でした。ただ具体的な診断が付きかねる状態でもありました。人工呼吸器(酸素マスクを付け、高濃度の酸素を送る呼吸補助)を行いつつ考えられる治療を施しましたが、症状は徐々に悪化し意識も混濁していきました。
昨年はクリスマスツリーをいつまでも仕舞えなかったです。
このAさん、実はウチの奥さんの弟、つまり僕の義弟です。Aさんは数年前に素敵な女性と結婚され、その後第1子が誕生。そして救急搬送されたその日は数週間前に第2子が産まれたばかりでした。Aさん一家はまさに幸せ絶頂のクリスマスを迎えるはずだったのが一転、夫は病院のベッドで、妻は乳飲み子を抱え面会もままならない中、今年の新年を迎えたのでした。Aさんの姉であるウチの奥さんも、言葉で言い表せないほどの大きな不安を抱えた年越しとなりました。
僕に出来たことはただ寄り添うだけでした…
今年に入ってAさんの病状は更に悪化、遂にECMO(エクモ)装着の為の転院が決断されました。コロナ禍で広く知られる様になったECMOですが、本来これは治療装置ではありません。手術中の心肺機能の代わり、または心肺停止時の蘇生に使うなど一時的に肺を休ませて回復を試みるためのものです。今回も後者の意図で、およそ3週間が勝負でした。転院先は救急外来の重症者を扱う科で、決して長期的な治療を行う部署ではありませんでした。そして3週間が経った頃、それまでほぼ面会不可だったAさんに、出来る限りの面会を許可するという連絡が医師からありました。回復の見込みが見られずECMOを外す事が提示されました。それは“終わり”を意味するものでした。
医師も諦めていたのですが…
Aさんの妻は、それでも諦めませんでした。残された時間の中で心肺治療の専門家を訪ねては意見を仰ぎ、わずかな回復の可能性をも模索しました。そして恐らく最後のチャンスであろう医師との直接ミーティングの際、普通なら決して進言するようなことではないけれど具体的な治療方法に言及することで、ささやかな可能性にトライして頂けることになりました。その時点でECMOの連続使用期間は2ヶ月を超えており、本来するはずのないフィルター交換まで行った延命措置が取られた状況でした。
Aさんの奥さんは最後まで決して諦めませんでした。
そんな私達に、遂に“奇跡”が起こりました。機能を完全に失ったと診断されていた肺が、少しずつ呼吸を始めたのです!それは日増しに快復していき、念願のECMO離脱、そして人工呼吸器への切り替えが実現したのでした。延命せずとも、自分の肺で酸素を取り込めるようになったのです!同時に意識も回復し、コミュニケーションも取れるようになっていきました。やがて簡易型の呼吸器に切り替わると、自宅に近い病院への転院を経てようやく退院の日を迎えました。現在Aさんは自宅療養をしながらリハビリに励んでいます!
肺は一旦壊れると再生しない臓器なのですが、再び動き出したのは大変驚きました。
夫の回復を信じ、努力し、その想いによって現場の医師が医療の限界をプッシュしたことで、Aさんは生還しました。クサい言い方ですが、愛が奇跡を生む瞬間を目の当たりにしました。僕にとって今年は、良いことばかりではないけれど、悪いことばかりでもなかった2021年でした。来年も、僕にも皆さんにも、たくさんの奇跡が訪れるといいな。お互い信じるべき何かを信じて、来年も一歩ずつ歩んでいきましょう。
僕の身近で実際に起きた大変プライベートなことなので、一部設定や呼称などが仮になっている点をご容赦ください。前のめり過ぎて、過去最長の文章な点もご容赦ください(笑)
ある日近所の小学生が描いてくれました。宝物です。来年も頑張るよ!


この記事へのコメント

だあきち

奇跡って本当に起こるのですね。
回復されてよかったです。

ゆーだいすきかあさん

お店の画像 ほっこり 珈琲飲みに行きたいです

芒果6號

ご回復本当によかったです。
肺活量は幾つになっても増えますよ。
人間の体はしぶといです。
そしてミラクルが詰まっています。
リハビリ大変だと思いますが、きっと体はそれに応えてくれます。
どうかお大事になさってくださいね。

みぃみぃ

回復されて本当に良かったですね。奥様 ご家族の力が伝わったのでは無いでしょうか…来年は良い一年で全ての皆さまに笑顔が1つでも増える年になれば良いですね(^o^)

はるちゃん

「愛が奇跡を生む瞬間」素晴らしい言葉ですね。回復に向かわれて本当に良かったです。
愛の力を信じ、色々な事を乗り越えていきたいと思いました。ありがとうございました。

江戸っ子

これから、リハビリも大変ですね。寒くなるので、頑張りすぎないのも必要な季節かもしれません。
来年こそは、良い事ばかりの一年でありますように。

コーヒーブレイク

回復、良かったですね。また新たな一年を刻んでいきましょう。

ほな

一年お世話になりました。来年もよろしくお願いします。

ニックネーム

※投稿時にこちらの名前が表示されます。
※投稿にはニックネームの登録が必要です。

コメント投稿にはログイン・
ニックネームの登録が必要です