第126話 コーヒー屋のささやかな幸せ

  • 2021.04.27
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うちの店の前の通りは、すぐ近くにある小学校の通学路です。下校時刻ともなるとたくさんの小学生で賑やかです。通り過ぎざま、通りに面した窓から店内を覗いていく子供も多く、ふいに目が合うこともあります。中にはきちんと挨拶をしてくれる子やちょっと言葉を交わす子もいて、こちらもあまり気が抜けなかったりします(笑) ある時は「知ってるー?ここコーヒー屋さんなんだぜぇ!」なんてお喋りが通りから聞こえてきて、僕も心の中で「正解っ!」と呟いてみたり。
小学校だけでなく中、高、大まで全部ある地域。若者が多い?
ある日の事。窓の外から二人の見知らぬ女の子がこちらをじーっと見ていました。気配に気付いた僕が視線を向けると、片方の子がペコっと挨拶して何かを言いたそうな感じでした。そこでテイクアウト用の窓を開け「こんにちは!」と声を掛けると、その子は唐突にこんなことを言いました。「あのぉ、ここにはトイレはありますか?」僕は「もちろん!」と返すも、もしや我慢の限界なのか?と思い尋ねると、今はしたくないけれど、万が一下校途中で催した時にトイレを借りてもいいか聞きたかったのでした。
店内から窓の外を臨む。横断歩道は学校職員が交代で交通整理。
これってつまり、下校途中に駆け込んでいい避難場所を子供が自ら開拓した、と言えます…よね?(笑) 学校やPTA、つまり大人から頼まれたのではなく、子供に選んでもらえたというのが何だかとても光栄で、「もちろん、いつでもどうぞ!」と伝えました。すると名前を尋ねられたので店名と僕の名前を名乗ると、何か書くモノを貸してと言うので、白紙のカードとペンを渡しました。その子(Kちゃん)は自分の名前を書き、もう一人(Cちゃん)も「私も書くー!」と言ってそこに名前を書き連ねました。
渡した紙はショップカード用のもの。相変わらず手作りカードです。
二人は自己紹介をしつつそのカードを渡してくれました。僕はある事をとっさに思いつき、二人にこう伝えました。「ちゃんと挨拶出来て偉いね!でも知らない人には、名前をあまり簡単に言わない方が良いよ。悪用されるといけないし。でもこのカードはとても嬉しいし大切にしまっておくね。そして帰ったらおうちの人に、『お店の人からそう言われた』と必ず伝えてね!」二人は一瞬神妙な面持ちをするも、元気に返事をして笑顔で帰っていきました。
“こども見守り110番の家”とか貼れば?なんて言われるけれど、見守るのは当たり前にも思えて…。
とっさの思いつき…そこには二つの意図がありました。ひとつは子供達に『挨拶は大切である半面、個人情報を守ることの重要性も知って欲しかった』こと。もうひとつが、親に『子供が知らない大人に名前を伝えていることと、その大人がどこの誰で、取得した情報(ここでは名前だけど)の機密性を重視する考えの人物だと示せること』です。ちょっとした仕掛けのような思いつきでしたが、間接的にこちらの存在を親御さんに伝えたかったのです。すると後日、Kちゃんはお母さんと一緒にお店へ挨拶に来てくれました!改めて僕から事の顛末を伝えたので、親御さんも少しは安心してくれたように思いました。ふぅ、良かった。
この春もたくさんの子供たちが入学しました。コーヒー屋ですけど、皆の成長が楽しみです♪
【後日談】数日後、今度はCちゃんの方が別のお友達Sちゃんを連れてきました。Sちゃんも自己紹介してくれ、更に翌日にはSちゃんが一人で来ました。そして「明日お母さんが誕生日なので、コーヒーが好きだから連れてきます。」と言いました。翌日、Sちゃんは本当にお母さんを連れて来店してくれました!誕生日のお祝いに娘がコーヒーショップへ連れていってくれるだなんて、お母さん嬉しかっただろうなー。まあ、お代はお母さんが払ったんだけどね(笑) でも店が誰かの幸せをアシスト出来て僕も嬉しかったし、これからもそう在りたいと思う出来事でした。


この記事へのコメント

町の修理屋

何か凄く良い話で涙が出てきそう。
子供達の大切な心を大事にし、現実の怖さも知っていただくことは良いと感じました。

あこ

朝、ベランダから外をみると、こどもたちの登校している姿がみえます。あたりまえのような光景ですが、幸せな光景でもありますよね。

ほな

老人団地では子供の声はありません。

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