第119話 ペーパードリップの人

  • 2021.01.13
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明けましておめでとうございます。
今年最初のコラムなので新年のご挨拶から始めました。でもこれが公開されるのは1月中旬の予定。皆さんは既にいつもの暮らし=“新しい日常”に戻っている頃でしょうか。またはコロナウイルスの影響で、更に厳しい日常を強いられているかも?ストレスフルな生活の中では、その緊張をほぐす為の時間も今まで以上に重要になる気がします。コーヒーブレイクと言う言葉もあるくらいなので、是非それぞれお好みのコーヒーでひと息ついて頂けたらいいなと思います。
新年は行きつけのビストロにちょっと顔出しただけ。
人によって異なる“コーヒーの好み”ですが、それは「コーヒーの原体験」や「印象の強い出来事」、また「生活環境」自体の影響が大きなウエイトを占めると感じています。僕のコーヒーの好みはクリアでバランスの良い味わい、また柔らかな苦味と共に甘味のある感じが好きです。これは中煎り~やや深煎りの豆をペーパードリップで淹れた場合の味わいなのですが、多くの日本人が持つ好みともほぼ一緒だと思います。これは生まれながらにそういう好みだというより、例えば歴史的な影響や食文化、環境面の要素が大きいのかなと思います。
ついでにちょっと店に寄り、看板の取付位置を検討。
日本で「コーヒー」という言葉から連想する味はペーパードリップのコーヒーです。でもヨーロッパだとエスプレッソやフレンチプレスを思い浮かべる国も多いし、ロシアではインスタントコーヒーが主流です。印象としての話ですが、ペーパードリップのコーヒーが主流の国と言えばやはりアメリカで、後はその影響を受けた国、正確にはアメリカに占領されたことのある国です。でも占領されたら全部変わってしまう訳ではなく、受け入れる素地があっての話。それ以前から日本はペーパードリップ向きの場所でした。
近所の神社でおみくじを。大吉じゃなかったとしても、いろいろ上手くいくつもり。
日本には茶道や緑茶を嗜む文化があります。クリアで苦味がある飲み物をある種の儀式のように点てる行為。それはペーパードリップの抽出に通ずるものがあると思います。日本は軟水ですが、これはペーパードリップ向きなんです。明治の終わり~大正にかけては、ブラジルから大量のコーヒー豆が送られてきたことから銀座で喫茶店文化が花開きました。アジア圏においてかなり早い段階でコーヒーが根付いたのは、これがきっかけと言えます。また元々の食文化の影響も大きいと思います。日本のお出汁の文化は、透明な液体の中に漂う繊細な味わいを楽しみます。これもペーパードリップに似ていると思うのです。
サイクリングロードから。子供達の凧揚げ風景は優しい気持ちになる。
そんな風に醸成されたペーパードリップのコーヒーを、大人たちが美味しそうに飲む姿を見て育ったなら、個人レベルではそれが原体験となり、同じ様な人を生み出し続けることになります。アメリカでは同じペーパードリップでも浅煎りで酸味系の軽やかな味わいが主流ですが、向こうの生活でコーヒーを覚えた帰国者は酸味系のコーヒーを好む場合がとても多いです。イタリア人旅行者にどれほど上手くドリップしたコーヒーを出しても、「美味しいけど…エスプレッソには敵わないな」と言われたこともあります。原体験の影響がいかに大きいかを物語る話です。
何気ない日常の幸福さを知った今、どうか穏やかな日々が戻りますようにと祈るばかり。
そんなこんなで、僕はペーパードリップの人。これからもペーパードリップのコーヒーを淹れ続けるでしょう。それが好きで、その美味しさを伝えたいからです。でも他のコーヒーも全てリスペクトしています。なぜならどんなコーヒーだって、たとえそれがインスタントであっても、元はコーヒーの木に実る一粒の実なのですから。不安定で大きな変化を求められる世相が続きますが、この一年も様々な形で手を変え品を変え…いや、品は変えないか…コーヒーの美味しさや魅力を伝えていきたいと思います。コラムでもどうぞお付き合いのほど。


この記事へのコメント

ほな

今年の正月は静かな正月でした。

まるまる

私もペーパーフィルターで淹れたのが好きです。簡単だというのもありますが。

あこ

コーヒー、ホッとしますよね。ティータイムはいつもコーヒーです。

ほな

正月からコーヒーブレイク、いいですね。

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