第76話 言葉に出来たなら

  • 2019.04.01
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今回は前回の続き。“普通の人”が「わたし、コーヒーは詳しくないから、味の違いとかよく分からない~」と言ってしまうのはなぜか?についての、ふたつめのポイントです。(って、長い前置きだ。)
前回お話した通り、“普通の人”でも実はしっかりちゃっかり繊細な味覚をお持ちです。経験値が少ないから味わいの基準を持てていないだけで、ちゃんとキャッチしています。その証拠に、飲み比べをすると違いに気付く人多数。初めの一口目が基準となって、次の味と比較が出来るからです。でも…この段階では「何となく分かるけど、何が違うかは分からない」っていう感じですよね。せっかく違いを捉えていながら、なぜ「分からない」と言ってしまうのか。それにはもう一つのハードル、「言語化」の壁があるからなのですね。(さあ、小難しくなってきたぜ。)
僕のサイクルジャージのデザインは虹。7色でした。自転車の世界では、虹色は世界チャンピオンを意味します。
虹は何色ですか?(そこの君。唐突に何言ってんだこのオッサン、とか言わない。)多くの人が7色と答えるでしょう。でもこれ国や地域によって違うのです。ちなみにこのネタ、FMラジオのCMでやっていたからパクリだと思われちゃうけど、以前から温めていたネタです!ホントです!(笑) 実態としては多いところで8色。以下順に7、6、5、4、3色ときて、最小はなんと2色ですよ奥様~!内訳をみると、色数が少なくなるにつれ、近い色同士をまとめて一色で表現しているのが見てとれます。
この4色だけは「い」が付いて形容詞となる。他の色は、例えば「黄い」や「茶い」とは言わない。
逆に、日本の伝統色と呼ばれるものには、とても繊細な違いにひとつひとつの色名が付けられています。でもホントに繊細で…群青色(ぐんじょういろ)と瑠璃色(るりいろ)と紺碧(こんぺき)は、全部「青」と思ってしまいます。これだけ聞くと日本人って繊細な感覚を持っているんだな、凄いなあって思うかもしれませんが、そういう話でもなさそうです。日本には元々、色は4色しかなかったようなのです。もっとも基本となるのは赤と黒。それに白と青を加えた4色が、日本人の感性で捉えた色でした。
大人の事情でフレーバーホイールは掲載しませんが、実際こんな感じです。
語源を追うとガッテンです。赤いはあかい=あかるい=明るい、黒はくろい=くらい=暗い。つまり明暗なんですね。それに、はっきりした感じを表す白と、ぼんやりした感じの青が加わっています。ちなみに「白」という文字は頭蓋骨を表す象形文字なのだそう。神聖な感じがしますね。

味覚も、全く同じことだと思います。

最初は「赤と黒」同様に、「美味しいと不味い」の二つが基本だと思います。これが甘いだの苦いだのと細分化され、数が増えていったのだと。ここで重要なのは、舌が捉えたわずかな違いに“名前”を付けたということです。「細分化」っていうのは感覚が捉えたものをただ細かくしただけじゃなく、それを名付けた=「言語化」したということです。そして言葉にすることで、モノゴトはより明確に認識出来るようになる、と。だから言語化が進むと、青も群青色と瑠璃色になったりするんですね。
コーヒーの世界にはフレーバーホイールと呼ばれる味わいの色相環図があります。例えばフルーティーな味わいは、その下にいくとベリー系、ドライフルーツ系、柑橘系、などと分かれ、さらに柑橘系はレモン、ライム、オレンジ、グレープフルーツと細分化=言語化されています。あなたが感じたその味わい、もしも言葉で言い表わせたなら、それは「在る」ものだし、言えなかったら「在りそう」だけど言えないので「分からない」になってしまいますよね。
そう思うと「言語化」っていうのは、ことごとく知性と感性のランデヴーなのだな、と感じます。
コーヒーは、あなたの知性と感性をも刺激する存在なのです。


この記事へのコメント

トシボー

たかがコーヒーされど珈琲、奥が深いですね。

ほな

勉強になりました。

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