第75話 味わいの絶対音感

  • 2019.03.25
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東京・新宿にある某大手雑貨店(というか東急ハンズですが)では、以前から僕のコーヒー豆を取り扱ってくれていて、僕はほぼ毎週のように実演販売をしています。コーヒー専門店にありがちな敷居の高さがないので、大半のお客様はそれほどコーヒーに詳しい訳でもない、いわゆる“普通の人”です。おかげで世の中の一般的なコーヒー事情を、リアルに肌で感じられる貴重な場所です。
多くのお客様と接していて時々聞く言葉があります。それは「わたし、そんなにコーヒー詳しくないから、味の違いとかよく分からないわ~」というセリフ。自分が専門家でもマニアでもないことだと、誰でもそんな風に思いますよね。でも他のことならともかく、コーヒーに関しては“普通の人”でも充分感じ取ることが出来ると思っています。ただ、ある理由で「良く分からないわ~」という結論になってしまうのかな、と。どういうことでしょう?
弦楽器のチューニングをするのに、多くの人がチューナーという機械を使って合わせています。高校生の頃は、音叉(←おんさ、って読みます。知ってる?)を叩いてフォ~ンと鳴らしたまま端の方を噛み、頭の中に共鳴するA=440Hzに合わせる…なんてやり方を先輩に教えてもらいましたが、今どきそんな人はいないかな。いずれにせよ、これらは全て「基準」と比較するやり方です。でもたまにそれを必要としない人、いるんですよね、絶対音感を持っている人です。自分の感覚の中に440Hzが備わっているので、パッと弦を鳴らすだけで違いが分かっちゃう。目の前でやられるとカッコいいんだわー(笑) で、実はコーヒーの味わいに関しても、これと同じだと思うのです。
ときどき僕は、淹れ方の違う試飲のコーヒーを二つ用意して、それを立て続けに飲んでもらうことがあります。違いといっても、例えば抽出量が10cc違うといったわずかな違いです。それでも「わたし、分からないわ~」なんて言っていたほとんどの人が、その違いに気付いてしまうのです!なぜなら最初に飲んだものが「基準」となって、次のコーヒーを味わっているからです。人間の持つ味覚のセンサーは高性能。だから“普通の人”でも基準となる味がある=飲み比べ出来る状況だったら、わずかな違いくらいは誰でもキャッチ出来るんですね。
飲み比べというのは「間違い探し」みたいなもの。二つの絵を並べて比較すれば、違うところが自然と浮かび上がって見えてくるように、味わいに関しても同じ捉え方が出来ると思います。そして専門家やマニアが飲み比べをしなくても違いを説明出来るのは、これまで何度も飲むうちに身に付けた「基準」、つまり味わいの絶対音感のようなものがあるからなのです。
絶対音感は後天的に身に付けられるそうですが、5歳くらいまでの話だそう。味覚の方はどうなのか分かりませんが、コーヒーは楽しく、美味しく飲むうちに、いつの間にか味わいの絶対音感を身に付けてしまう気がします。ポイントは「楽しく、美味しく」ですかね♪そしてキャッチした味わいを説明するのにもう一つポイントがあるのですが…それは次回。


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