第67話 緊張と情熱の間に(後編)

  • 2018.11.12
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猛烈に緊張した講演をなんとか無事に終え、放心状態になっていた僕。燃え尽きて、もう何も手に着かない感じでしたが、最低限必要な仕事を片付けると、夕方には都内の某駅へ向かいました。アフリカ・セネガルのトップミュージシャン、ザール・セックのライブを見に行くため、カミさんと待ち合わせをしていたのです。僕はさほど音楽に詳しい方ではないのですが、それでも見に行くことになったのは、先日知り合ったばかりのプロの演奏家、ベースの土村さんとピアノの木村さんのお二人が、ザール・セックの日本人バックバンドメンバーとして国内ツアーを回っていたからでした。つまり、お二人の演奏を見てみたい!というのがきっかけなのでした。

始まる2時間以上も前に出向いて、入場整理券の1番、2番をゲットしました。これで好きな席を選べます。オープンまでは小一時間あったので、近くの居酒屋で乾杯と腹ごしらえをしつつ、カミさんに講演の結果を報告するうち、すぐに時間となりました。再び会場まで戻ると、リハーサルなのか激しい太鼓のリズムが一瞬聴こえてきました!

会場がオープンし一番に入場すると、目の前には見たことのない打楽器が並んでいました。それは手とスティックで叩くセネガルの楽器“サバール”でした。この日のライブはメインのザール・セックの他に、いわゆる“対バン”も出演する日でした。楽器はその対バン、『ワガン・ンジャイ・ローズ&ソフィ・ケルギ』のものでした。

開け放たれたライブハウスの入口から、強烈なアフリカンビートが
溢れてくる。
セネガルの打楽器、サバール。スティックは削り出した枝。
叩くうちに木屑が飛び散りだすほど柔らかい。

ザール氏はセネガルで圧倒的なキャリアを誇るスーパースター!一方のワガン氏もセネガルの人間国宝である打楽器奏者ドゥドゥ・ンジャイ・ローズの御子息で、ローリングストーンズやスティービーワンダーと共演した事もある人!つまりこの日はザール・セックを中心に、セネガル音楽界のスターが日本で共演するという、そんな特別な日だったのです。でも僕らはそんな事を知る由も無く、開演と共に始まった押し寄せるリズムの強烈な一撃に、完全にヤラレタのでした!

それはまさに大地のビート!そして複雑極まりないリズムの応酬!でも決めの部分(?)はぴったりとタイミングが合う!いったい何がどうなっているのか??更にスゴイのは、演奏が盛り上がってくると始まるサバールダンス!その躍動感はどこまでもしなやか!しかも天井が低く狭いライブハウスの、僅かな空間の中で異様なスピードと跳躍を繰り出すのに、彼らはどこにも衝突しない!恐るべき空間の把握力!そして飛び散る汗にまみれるほど輝きを放ってゆく。それは都市生活者の多くが失いかけている、生命の輝きそのものです!

ワガン・ンジャイ・ローズ&ソフィ・ケルギの演奏と踊り。
MCでは日本語で『北海道で雪焼けです!』なんてギャグも。

左がザール・セック。大きいのは錯覚だけじゃない!
中央の土村さんのベースも凄かった!
右はザールの息子、アサン。ハチマキがいいね♪

ザール・セックは、もう登場するだけでアフリカの大地が持つ大らかで優雅な空気に包まれてきます!彼の存在感はどこまでも分厚く、気品に溢れており、そのサウンドは日本人の僕らをも受け止めてくれる器の大きさがありました。実際、彼は身長2mの大男!そりゃ大きいはずです(笑) 息子のアサン・セックのギターは、アルペジオを多用した独特のプレイでビートに彩りを加え、土村さんのベースはまさしくサウンド全体の下支えとしてさすがのテクニックを発揮、木村さんのピアノはメロディラインを奏でるだけでなく、リズム隊の一員としてもサバールに負けないアフリカンリズムを繰り出していました。ドラムの“つの犬”さん、パーカッションの“あらかり”さんも、バンドの核として力強いリズムを生み出していました。

ピアノの木村さん。
写真では分かりにくいけど衣装がかわいいです!
アルバムを購入し、サイン頂きました!
なんて書いてあるかは…フランス語?

昼間の仕事で燃え尽きていたはずの僕だったけど、彼らの力強い演奏と踊りは、まるで魂から無尽蔵のエネルギーを呼び起こす起爆剤のようでした。いやー、アフリカって凄い!!



この記事へのコメント

みんみん

セネガルと言えば、昔トゥレクンダというバンドがサザンオールスターズとセッションするのを観たことがあります。ライヴ、是非行ってみたいな。

ほな

感動しました。

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