第52話 あなたの、僕の、新年度

  • 2018.03.26
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新年度の始まりですね。新入生や新社会人はもちろんですが、多くの人にとって何かしら変化のある時期なんじゃないかと思います。と書いておきながら、そういう僕自身は一人で仕事をしているので、春のこの時期でも異動もなければ新入社員を迎えることもなく、特別大きな変化というのはありません。それでも例えばこの一年間を振り返えると、幾つかの変化はありました。

この一年で一番大きかった出来事、それは焙煎機の設置場所を変えたことです。
焙煎は乱暴に言ったら“煎るだけ”ですが、ただ火で煽ればいいというものではなく、あれこれコントロールして理想的な流れで豆を化学変化させていくものです。理想的な流れがあるということは、そのパターンをマスターすれば誰でも出来そうに思えます。でもいろんな条件が常に変わってくるので、同じやり方で全てが上手くいく訳ではありません。変化する状況に合わせて適切な修正を加えていく難しさがあるのです。

例えば、豆自体は農産物なので産地によって状態が異なりますし、水分値も徐々に下がるなど変化していきます。また冬場は気温差による負圧の増加…煙突内の熱い空気が温度差により強く吸い出されてしまい、その負圧で焙煎機内部の温まった空気も抜けていくので、豆の仕上りが変わる現象も起きたりします。「さーむーいー、夜だーかーらー♪」と口ずさみながら火力を強めにするといった単純な話ではない訳です。つい唄うけど。
こんな風に焙煎にはシビアな面があるため、移設をすると些細な影響が次々と発覚します。

今回だと、まずガス圧。僕の焙煎機は都市ガス仕様なのですが、道路下の本管から部屋の元栓までの配管の、その太さで変わります。太さが同じでも建物内でたくさん共用されていたら影響が出たりもします。
もう一つが排気ダクトの取り回し。熱い空気は上には自然に抜けていくのですが、横方向には動きにくいです。だから横に伸ばすなら縦にも長くして、負圧で流れていくように設置します。一説には横に1m伸ばしたら縦に2m取らないと、空気の抜けが悪くなるとか。現代の焙煎機には強制排気装置が付いていますが、それでも排気ダクトの長さや角度は、少なからず影響があるものです。

そんな影響を踏まえてセッティングをしなおし、幾つかの失敗焙煎を重ねて上手いポイントが分かってきたところで、本当の意味で完了した移設でした。
僕の焙煎機は元々知り合いの飲食店に設置していて、その店の営業時間外に秘密の焙煎工房?として使っていました。でもその建物が取り壊しの為閉店することになり困っていたところ、たまたま別の知り合いの計らいで、その人が所有する「使われていない建物」に置かせてもらうことになり移設したのでした。実はそこは何年も前まで歯科医院だった建物で、僕はその待合室を焙煎工房として使うことにしました。焙煎に影響のない所は残してあるので、焙煎中にふと横を見ると「受付」の小窓がある…というCoolでLuckyな環境で、日々美味しさを生みだしています。区切りというのは、望む望まないに関わらずその人のタイミングでやってきますが、結局僕は何が起きようと“心ある人の支えの中で、何とか生きてる”感じです。


この記事へのコメント

ほな

コーヒーのいい香り。

ほな

コーヒー豆は生き物だ。

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