第32話 ドリッパーに込めた想い

  • 2017.05.15
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コーヒーといえば、ペーパードリップで淹れたものを思い浮かべる人が多いと思います。
ペーパーでしっかりと濾過されるのでクリアで香り高い味わいですが、それは試行錯誤の末に辿り着いた味わいとも言えます。
「コーヒーを淹れる」って一体何をやっているのかと言うと、コーヒーの粉とお湯を合体し、お湯にエキスが移ったら、また分離する事です。 ポイントは「いかにエキスを移すか」と「どうやって分離するか」の2点にかかってきます。 つまりコーヒーの抽出とはその2点を追い求めてきた歴史、と言えます。
初めは煮立てて飲むものでした。それはアラブのお坊さんの秘薬で、特別な飲み物だったはずです。 でも農産物としてヨーロッパに渡ったのち、南北アメリカ大陸やアジアに拡がっていく中で、その抽出方法も様々なスタイルが生まれていきました。 当初は上澄みを飲んだり、金属のフィルターを使う方法なので、コーヒーの味わいはたくさんのコーヒーオイルを含んだ、コクのあるものになります。 それが布、そして紙を使う濾し方へ発展した、つまり「よりクリアな抽出方法」が発明されてきたと言えます。
その中でも紙で濾す方法は、その後のコーヒーの世界を見れば分かる通り、大変革命的な出来事だったと言っていいでしょう。
そんな抽出方法ですから、さぞ強烈なコーヒー研究家の情熱が生み出したのかと思いきや、実はある一人の女性の愛情によって生み出されたものでした。
それは今から100年と少し前のこと。当時は金属フィルターや布を使う方法が一般的だったので、コーヒーには粉が多く混ざったり、布の管理に衛生面で問題があったりと、簡単ではなかったようです。 でもドイツに暮らす一人の女性が、自分の夫に美味しいコーヒーを手軽に飲んでもらいたいとの想いから、「小さな穴をあけた金属容器に紙を敷き、コーヒー粉を乗せて濾す」という方法を発明しました。

その名はメリタ・ベンツ。 そうあの「メリタ」誕生の瞬間です。粉が混ざることなく、雑味が濾過されたクリアな味わい、そして後処理が簡単とくれば、人気が出ない訳はありません。 一人の女性の夫を想う愛情がアイデアを生み、それが世界に拡がって、多くの人々に豊かなひとときを届けることとなった訳ですね。
この話、素敵な続きがあります。実はその息子であるホルスト・ベンツが、もっと使い易く出来ないかと改良を加えたのが、現在の逆三角で溝のついた形のドリッパーなのです。そしてその最大のポイントは小さな一つ穴。 これによりお湯は一定の時間でゆっくりと落ちていきます。 結果としてコーヒー粉は必ず一定の時間お湯に浸った状態(前回お話しした浸漬法ですね)となり、味わいも常に一定となります。

つまり、誰が淹れてもいつも一定の美味しさを作ることが出来るということ。 これこそが浸漬法一番の魅力であり、手軽に安心してドリップ出来る事にあります。 浸漬法の代表的ドリッパーであるメリタには、手軽に美味しいコーヒーを飲んでもらいたいというメリタ・ベンツさんの愛情が、今も脈々と受け継がれているのですね。
2話に分けて透過法と浸漬法に触れました。どちらも実に魅力溢れるものであること、お伝え出来たかな?

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