第144話コーヒー屋さんのお味噌汁

2022.01.20
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コーヒーナビゲーター黒田悟志

あまり大っぴらには宣伝していないのですが、ウチの店Day Drip Coffeeにはアルコールメニューが結構あります。アルコール類の中でも、ビールに関してはカフェ開業を目指した当初から“ハートランド”と決めていました。ご存じですかね、ハートランド。グリーンのガラス瓶がとてもきれいな、僕のお気に入りです。よく海外のビールと勘違いされるのですが、日本のビール、キリンです。それ以外のメニューは開業してから少しずつ増えていきましたが、今はかなり変わったカクテルと純米の日本酒が多いですね。

麦芽とホップのみで作られた本物のビール。ハートランドで行こ～う～♪

変わったカクテルだと、例えば“コーヒー泡盛”が一番人気でしょうか。開業後まもなく始めた定番メニューです。本来の“コーヒー泡盛”は泡盛を缶コーヒーで割るというものです。さすがにウチはコーヒー屋なので、僕のハンドドリップで淹れたアイスコーヒーで割ります。沖縄では家飲みスタイルの一つなので飲食店ではあまり見かけず、結果的に旅行者が知る機会は少ないかもしれません。現地のコンビニでは出来あいのコーヒー泡盛が売られているので、沖縄訪問の際は是非お試しを。早く安心して行けるようにならないかな。

泡盛はいろいろ試した結果、石垣島の請福に。古酒だと合わないです。勿体ないし。

そして日本酒。ウチは冷酒をワイングラスでお出ししています。常時3種類くらいですね。鮮度維持も踏まえてそのくらいにしています。またグラスの特性上、香りを楽しめるものが良かろうと思い、吟醸系のみで始めてみましたが、今は辛口の純米酒も定番化しています。好きな人多いですからね、辛口。こうなると欲しくなるのが酒の肴、おつまみです。でもそっちはあまり得意じゃなくて、現時点では自家製スモーク盛合せくらいしかなく、スイーツとして出しているサーターアンダギーを肴に呑む人まで現れたりして、混沌とした状況です。

年末年始は増えたラインナップ。どんどん変わりますが、出羽桜は何かしらいつもあります。

そこへ追い打ちをかけるかのように、準備を進めている新メニューがあります。“お味噌汁”です。つまみも無いのにいきなり〆のメニューから充実させていくというのもどうかしていますね。たまたまテレビで見たお味噌汁があまりに美味しそうで、自分が飲みたくなってしまったというのが理由です。それは、鹿児島県は指宿の“本枯節”というかつお節とお味噌をお椀に入れ、お湯を注いで溶いただけのシンプルなもの。今回はその本枯節と一緒に削り器まで取り寄せてしまいました。

こうして撮っているだけでも漂うかつお節の香り♪

元農大生が営む近所のお店Hachiさんで購入。山形のすずき味噌店の米味噌。

一般的にスーパーなどで売られているかつお節は、１ヶ月未満の短期間で仕上がる荒節と呼ばれるもの（花かつお等とも言う）が大半で、一部に３ヶ月ほどかけて作られる枯節と言うものがあります。本枯節はそれをさらに熟成させたもので、今回取り寄せたものは６ヶ月に及ぶ工程を経て作られています。それを削りたてで味わうのだから、美味しさのインパクトはコーヒーとは別世界！年末に、たまたま居合わせた常連のお客様にも試して頂いたところ、具が入っていないにもかかわらず大変好評でした。

コツが掴めず、何度やっても鉛筆削りみたいになってしまう。

必然的に「美味しくてご飯も食べたくなるよねー！」「ねこまんま最高じゃない？」「ちょっと漬物も欲しくなるね。」などと盛り上がる訳ですが、そこでハッと思うのです。ここはコーヒー屋じゃなかったっけ？と。それはまるでコーヒーを中心（恒星）とする太陽系の世界で暮らしていたのに、誤ってその外側に飛び出してしまった気持ち…って言っても解りづらい喩えですね。でも鼻腔の奥に拡がる豊かで芳醇な香りは、コーヒーとは全く別の強烈な重力場となって、僕の乗った小さな宇宙船Day Drip号を見知らぬ銀河系へと引っ張りだすのでした。あぁ、一体どこへ…。