第131話 まるで弾き語りのように

  • 2021.07.15
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ウチの店のテーブル席のうしろは、一面“白い壁”で何も飾っていません。店をオープンした当初から、プロジェクターで何か気の利いた映像でも流せたらいいなと思っていたからです。でもそうこうするうち早一年以上が過ぎまして…。一度だけ借り物のプロジェクターで閉店後に自転車レースを映してみたものの、いまだプロジェクターの購入には至らず、壁は相変わらず白いままでした。ところがある日お友だちの平岡淳子さんの提案によって、ただ白いだけの壁が素敵な展示スペースへ変わることになりました。
ずっと白い壁でしたが…
詩人・平岡淳子さん。出逢いはある私鉄の駅前にあった喫茶店で「サイフォンでコーヒーを淹れてくれる人」としてですが。彼女は若い頃から詩を書き始め、故やなせたかしさんが責任編集されていた『詩とメルヘン』で活躍、その後『詩とファンタジー』の編集を担当、詩集も発表しています。そんな彼女はこの4年ほど水彩画も描いています。それも休まず毎日3~4枚の絵を描き続けています。今年5月には表参道で初の個展も開きました。ちなみにその時点で描いた枚数は4千枚とのこと。ひえ~!絵はSNSに毎日アップされていましたが、実物を見るとその印象はまるで違っていました。どれもが鮮やかで、かつ活き活きと魅力的であり、僕は大変感銘を受けました。
淳子さんがコーヒーを淹れていたお店。とても雰囲気ある店でした。
個展では4,000枚のストックから厳選した100枚を展示。
その個展からしばらくして、淳子さんは近所に住むご友人のHさんと来店してくれました。そこでいろいろなお話をする中で、ふいに彼女は“白い壁”を指し「絵をここに飾ってもらうことは出来る?」と提案してくれたのでした。想定外の嬉しいお話にちょっと動揺しましたが(笑) 当初は日替わりで毎日1枚(営業が毎週木~日の4日なので週4枚分)展示のつもりでしたが、さすがに勿体ないと思い、週替わりで一回4枚ずつにしました。期間は1ヶ月(4週間)とし、7月初めからがちょうど良いだろうと、あっという間に1ヶ月分の新作を用意してくれました。
展示の相談しつつのツーショット
またご友人Hさんの提案で、絵に詩を添えることにもなりました。絵と詩の二つをセットにして一つの展示になります。しかし展示レイアウトは「お任せします」とのことでした。思わず反射的にハイと返事をしましたが、考えたら彼女の周りはデザインのプロがたくさんいます。決して変な展示は出来ません。一つ一つの絵と詩に向き合い、散々考えました。結局は定番的な配置に収めましたが、展示レイアウトを考える中で僕は二つの事を思うようになりました。
絵と詩の位置関係など、とても悩みました。
一つめは、どうやらこれは絵と詩を展示するのではなく、絵と詩を通じて『平岡淳子』のひととなりを表そうとしているのかもしれないということ。彼女は気さくで明るく、好奇心いっぱい。どこか少女のようでもある女性です。そして実はいろいろと凄い人みたいですが、いつもニュートラルにお話ししてくれるので、こちらも構えることなく自然体でいられます。そんな淳子さんの絵と詩は、平和で穏やか、じんわりと愛情に溢れ、描く物に対して向けられる温かな視線を感じます。そして、これこそが彼女の“ひととなり”なんだな、と思うのです。
詩を添えない形が、本来の絵画観賞の在り方ではありますが…
詩が添えられることで、印象が限定されてしまう一方、詩の持つ世界観は強く印象付けられる気がしました。
二つめは、この作品群は彼女の弾き語りなのかもしれないということ。音楽は詩と旋律で作られていますよね。それを時間軸に沿って表現するアートです。展示した作品は詩と絵ですが、ここに時間の概念はありません。でも詩と何かで表現するアートという意味では、同じ文脈で語れるようにも感じます。彼女の作品を眺めていると、まるでフォークギターで弾き語りをする少女の歌のように思えてきます。それを「時間軸を持たない音楽」と呼ぶならば、次元を飛び越えてメロディを奏でる弾き語りのように感じるのです。
僕が一番愉しんでいます(笑)


この記事へのコメント

だあきち

綺麗な絵が描けるって、羨ましいです(^^)

ほな

絵で壁がよみがえりました。

なかなか

素敵な絵で、目に止まりました。
プロジェクターを使わなくても、素敵な発想の転換がいいですよね。

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