1. ホーム
  2. T's コラム
  3. 第89話 深遠なるコーヒーゼリー

第89話 深遠なるコーヒーゼリー

  • 2019.10.07
  • 255
  • 3

黒田 悟志



少しずつ秋めいて来たとはいえ、まだ暑さも残る9月最後の土曜日。ユフラトーキョー(※1)主催の音楽フェスが開催された。昨年末に初開催の『yanesen sakaue festival』(谷根千坂上フェスティバル)の第2弾だ。ユフラトーキョーのあるエリア一帯を僕らは「谷根千 坂上」(やねせん さかうえ)と命名し、音楽の街として盛り上げていきたいという想いが根底にある。フェスはそんな想いの集大成であり、小さな個人店が行うものだけど、中身は結構大掛かりだ。会場はショップ裏手にある寺「養源寺」。ここに自分達のコネクションで国内ミュージシャンの他フィンランドからもアーティストを招聘し、本堂でライブを展開。境内にはショップも多数招くなど、小さくて大きな音楽フェスだ。デイドリップコーヒーも会場での出店を打診されていたのだけど、今回は思う所あって、敢えてユフラトーキョーの店番をしつつ、ここで1dayカフェをしたいと申し出た。
フェス会場である養源寺正門。北欧雑貨のテンカラテンさんが、何故か脚をクロスさせて小洒落たポーズ。
本堂がライブ会場。撮影は知り合いカメラマンに依頼し、一部機材もメーカーにサポート頂く。
普段は焙煎しかしていない僕だけれど、元々はカフェ開業を目指していた身。出来る範囲でメニュー構成を考え、様々な下準備をした。と言っても手の込んだことが出来る訳でもない。フードは以前から一度やってみたかった「たまごサンド」一択とし、また酒飲みの友人の来店に備えワインとツマミも用意した。何事も備えあれば憂いなしだ(笑) そんな中、最も力を入れたのはやはりスイーツだ。コーヒーのパートナーとして外す訳にはいかない。今回は2種類用意した。一つは以前から作っていたタルト。もう一つがアイデアだけ抱えたまま実現していなかった、ちょっと特別なコーヒーゼリーだ。
境内には様々な物販。また本堂の地下にはフードコートも。
特別なんていうと少し大げさかもしれないけれど、僕が作りたかったのはシングルオリジンのコーヒー豆を使ったコーヒーゼリーだ。一般にコーヒーゼリーはブレンドコーヒーで出来ている。でも味わいの個性が光る良質なシングルのコーヒーを扱っているのだから、風味をそのままゼリーに閉じ込め、飲み比べならぬ食べ比べをしたら面白いのではないかと以前から思っていたのだ。これは自分の中である日突然ひらめいたものだけど、恐らく、同じことを考え、同じものを作っている人は既にいるかもしれない。でも僕のコーヒーがゼリー化されたことは無いのだから、未開拓の味わいとも言える。
玉子だけではさびしいので、スモークサーモンも投入。北欧感!笑
黄桃のタルト。焼いた後、バーナーで表面をさっと炙って焦げ目を付けたけど、ちょいバランス悪かったな。
僕はまず全ラインナップから候補を4つに絞り込み(書類選考的な?)、次にその候補の試作品で奥さんと品評会を行った。それはとても面白い体験だった。詳しくは言えないが、同じコーヒーでもちょっとした違いで、ずいぶん印象が変わることが分かった。ドリップではあまり感じなかった味が、ゼリーでは強く現れたなんていう発見は、ちょっとした研究者気分だった。最終的に2つを採用した。それは中煎りでバランスが良く端正な味わいのグァテマラと、深煎りで苦味の奥に個性が光るマンデリンだ。その後も製造工程や提供方法など、商品化に必要なステップを経て何とか形になった。そして前夜に仕込みをし、遂に当日を迎えた。
2種のシングルオリジンコーヒーゼリー、食べ比べセット。味わいの個性がそのまま!
カフェ営業の一日を通じて、コーヒーゼリーはとても好評だった。数もほぼ想定通りに売れた。ひとつ想定外だったのは、「え?こんな値段で良いの?」という声がとても多かったことだ。つまり安過ぎたのである。価格設定は難しい。毎回とても悩む。値付けとは、自分の生み出したものの価値を自己評価することだ。それが安過ぎると思われた事は、僕が思う以上に皆が「価値を見出してくれていた」ということであり、突き詰めていくと、僕自身の自己評価の低さが現れたと言えなくもない。
フェスのスタッフTシャツで営業。ワンオペに見えますが、奥さんの終日フォロー有り。
今回はコーヒーゼリーに多くの可能性や面白さを見出した機会となった。試してみたいアイデアもたくさん湧いてきた。しばらくはコーヒーゼリーの試作が続きそうだが、更にバージョンアップしたものを生み出したいと思った。NHK「プロフェッショナル」のテーマソングが僕の頭の中で鳴り響いているのは、ここだけの話だ(笑)
こうして夜が更けてゆく、9月最後の土曜日。
注1 ユフラトーキョー:友人とシェアしているスペースで、表側はフィンランド音楽と谷根千エリアのアーティスト音源を扱うCDショップ兼カフェ。バックヤードに音楽事務所と僕の焙煎工房がある。
注2 谷根千 坂上:東京下町の谷中・根津・千駄木エリアを通称「谷根千」(やねせん)と呼ぶが、そこは地形的には谷にある。ユフラトーキョーはそこから坂道を上がって来た千駄木の一番外れにあり、谷根千とは一線を期した場所だ。坂下にも負けない個性的なショップやアーティスト達が数多く潜んでいる。


  • ツイート
  • シェア
  • はてぶ

#

黒田 悟志 Satoshi Kuroda

Day Drip Company 代表

スペシャルティコーヒーと呼ばれる良質なコーヒーの世界。その魅力を伝える為に、勤めていた自家焙煎店から独立し、独自のブランド【Day Drip Coffee】を立ち上げました。

  (続きをみる)


この記事へのコメント

2019.10.22 19:25
最近、食べていないなぁ
食べ比べするのもいいかも
ぽち
2019.10.13 14:43
究極のコーヒーゼリーです。
ほな
ニックネーム:
※投稿時にこちらの名前が表示されます。
※このページにて新たに設定された場合、マイページに登録されているニックネームが変更されます。

オススメコンテンツ