第65話 音と音の間にある何か

  • 2018.10.15
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以前このコラムでも取り上げましたが、友人達と共に立ち上げたシェアリングオフィス兼ショップ「Juhla Tokyo」(ユフラトーキョーと読む)は、僕のコーヒー焙煎工房が設置されている他に、地元・文京区のミュージシャンの音源、そしてフィンランドの音楽シーンを彩るCDやレコードのショップでもあります。特にフィンランド音楽はo-moro music(オモロミュージックと読む)というレーベル代表のシオミさんがこれまで何度も現地を訪れ、日本ではなかなか手に入らない良質な音源をたくさん仕入れています。共にユフラを立ち上げてまだ3ヶ月ですが、彼はその間も既に2回、滞在日数で合計1ヶ月以上もフィンランドに行っていました。


そんなシオミさんが現地滞在中の10月初め、彼とは逆にフィンランドのジャズトリオKari Ikonen Trio(カーリ・イコネン・トリオと読む…ってこればかりですね)が来日していました。シオミさんは知り合いであるKariさんにわざわざフィンランドから連絡をして、ユフラ代表O川くんと僕の2名がライブの取材をするための許可を取り付けてくれました。ユフラではこれまで発表された彼らのアルバム3枚とも全て扱っているし、そのリアルな演奏を観る貴重な機会でもあります。当日僕はコーヒーの仕事を調整して、会場の横浜へと向かいました。


横浜では毎年、街をあげて「横浜ジャズプロムナード」というフェスティバルが開催されていて、今回のライブはそのプログラムでもありました。会場は老舗ライブハウス「エアジン」。店に入ると「あっ!」と声を掛けられます。先日ユフラのイベントにいらしてくれた二人のミュージシャン、ベーシスト土村和史さんとピアニスト木村秀子さんでした!そんな偶然の中で僕の緊張感は更に増していきました。なぜなら僕の裏ミッションはユフラ限定のコーヒー“ユフラブレンドを渡すこと”だったからです(笑)「おいおい演奏取材じゃないのかよ!」と突っ込まれそうですが、実は僕自身「ユフラ以前」はフィンランド音楽を全く聴いたことが無く、しかもジャズもそんなに詳しい方ではないもので…(汗)


コーヒーのことは後にして、まずは演奏を聴くことにしました。事前に彼らのアルバムは聴き込んでいたのですが、フィンランドの森をイメージする静寂さの印象が強く、失礼ながら「心地よさに居眠りしてしまったらどうしよう」なんて一抹の不安もありました。が、ピアノの最初の一音目が鳴った瞬間、全ては杞憂に終わりました。いやそれどころか、アンコール終了までエネルギーに満ちた素晴らしい演奏の連続で、僕は圧倒されっぱなしでした!それは紛れもないジャズそのものです。でも彼らのバックボーンであるフィンランドの自然を想わせる何かが確実に存在しました。


森の静寂や透明感だけでなく大自然の持つ力強い生命力、どんな小さな命さえその炎を力の限り燃やし続けようとする躍動感、そんなパワーが溢れ出す一方、静かな曲でも、音と音の間の無音の中にこそ何かがある、張り詰めた緊張感。そして余計なものがそぎ落とされて、無意味な音が一つも無いような音の存在感。恐らくは大変高い演奏技術を披露しながらも、それは表現すべき何かを伝えるための手段であり、目的ではないと訴えかけてくるようなとてもエモーショナルな演奏ばかりで、今でも心が痺れたままです。演奏後、カタコトの英語で感動を伝えつつ、コーヒーも手渡すことが出来て僕のミッションは無事に完了しました!


ユフラで扱うフィンランド音楽の半分がジャズを占める中で、これらの音源をどう聴いたら良いのか、今まで上手く掴めなかったのですが、彼らの演奏を聴いた今はこう思います。「Don’t Think! Feel!」


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